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第六話 【冒険者たち】

 明るくなってきた、正直現実から目を背けて寝てたいんだが、そうはいかんだろう。

 ……もう一つ目を避けたい現実がありそうだ。 目を開けるのが怖い。


「すう……」


 ……やっぱりか。 隣にレナがいた。

 今日も朝からとんでもない展開だなおい。


『どうしているんでしょうか……』


 全くわからん。

 というか密着してる。 なんならホールドされてる。 俺は抱き枕じゃないんだぞおい。

 とにかく起こそう。


「起きろレナ」

「んん〜……」


 起きねえ。 体を揺らすか。


「んん……? あれえ? どうしてこんなにちかくにエイジさま……が……」


 ふにゃふにゃな声を出して顔を真っ赤に染めた。


「〜〜!!?」

「うおっ!?」


 腕を離してさっきまで寝てたとは思えない速度で起き上がった。


「すいません……寝惚けてこんなことしちゃったみたいです……」


 ベッドから出て謝るレナ。


「ぐっすり寝てたぞ」

「本当にすいません……」


 男としては逆に嬉しいまであるんだがさすがにまずい。 昨日あったばかりの女の子と同じ部屋で寝るってだけでとんでもない話なのに同じベッドで密着して寝るのは本当に良くない。


「……着替えたいから自分の部屋に戻っててくれ」

「わかりました……」


 部屋を出るまでずっと顔が赤い。 すごい恥ずかしかったんだろう。


『朝起きたら可愛い女の子に抱きしめられてた、なんて元の世界の男性が聞いたらすごい羨ましがられますよ』


 いきなり好感度MAXな訳じゃないからこの後気まずくなるだけだと思うんだけどな。

 とりあえず着替えよう。 昨日着てたやつだ。

 服も手に入れないといかんな。 金がないんだけど。

 腕時計を付けて時間を確認すると今はだいたい7時ぐらい、もう時計の時差は慣れたぞ。


 着替えたことだし部屋から出よう。


「起きたかエージ」


 部屋の外でヘリクスが待っていた。


「さっきレナが顔を真っ赤にして出てきたが何かあったのか?」

「まあその……」


 起きたら抱きしめられてた、なんて言えないよな。


「その感じ、もしかしてレナが寝惚けて何かやったか」

「……もしかして前もそんなことがあったのか?」

「いや、だがお前さんはいきなり手を出すような男ではないじゃろう。 となるとレナが寝惚けてたぐらいしかないからの」


 信用されてて良かった。


「そんなことよりエージ、これから何するにしても金がいるじゃろう」


 そら当然な。


「お前さんにこれを渡しておく」


 ジャラジャラ言う袋を渡された。 これは……金貨と銀貨か。


「ドクス金貨とデリ銀貨じゃ。 金貨は銀貨の25枚分の価値がある。 パクス銅貨というのもあるが、銀貨の方が使い勝手がいいじゃろう。 1デリは35パクスと同じくらいじゃ」


 金貨が1、2、3、4……15枚か。 銀貨の方はいくつあるんだ?


「その袋の中には15枚のドクスと35枚のデリが入っておる。 これだけあれば生活に必要なものは簡単に揃うだろう」


 ……相場を知らないから正直どれだけの金額かわからない。 まあ、街に出てみればいいか。


「渡すものは渡したから食堂に行くぞ。 さすがにレナも準備はできておるだろうしの」


 大丈夫だろうか。 恥ずかしくて手元狂ったりとかしてないだろうか。


『大丈夫だと思いましょう』


 朝食、朝食か。 あれ、今思えば昨日の晩飯、当たり前のように三又のフォークとナイフ、スプーンがあったけどこれも介入の影響なんだろうか。

 介入の影響でとても中世から近世前期の世界とは思えないな。 まあそれで助かってるからいいんだが。


 食堂にやってきた。 まだ料理は運ばれてないな。


「あ、おはようございます」

「おはよう」


 エレナと挨拶を交わして椅子に座る。 全員いた、つまり昨日のは確かに現実だったということ。

 夢なら良かったなんてネガティブなこと考えてないでこの世界を楽しもう。


「レナが顔を赤くしてましたが、何かあったんですか?」


 さっき聞いたぞこのセリフ。


「レナが寝惚けてエージに何かやってしまったようでな」

「あの子ならやりそうですね……」


 もしかしてレナさんポンコツ?


「お待たせしましたー!」


 なんかそんなに気にしてなさそうな声だ。

 持ってきたのはスライスされたバターがたっぷり塗られてるように見えるパンとハム、チーズとゆで卵、そして菓子パン、これは焼きたてみたいだ。


「どうぞ、エイジ様」


 さっきと全然雰囲気違うんだけど。


『照れ隠しみたいなものでしょうかね』


 テーブルに置いたと思ったら隣に座ってきたんだが。 な、なんだ?


「レ、レナ? どうして隣に……?」

「密着して寝ちゃったんですから、このくらいしても許されていいですよね?」


 いや、それはないと思うが。


「私はここがいいんです。 ……向こうに座ると顔が見えちゃうじゃないですか」


 そういう理由? 恥ずかしいから逆に隣に座ってしまおうってか。


「あ、パンはハムとチーズを挟んで食べると美味しいですよ」


 それは言われなくてもわかる。 向こうでもやる時はやってた。

 それじゃいただくとするかね。


「いただきます」


──────────────


 朝食はシンプルで美味いのが保証されていた。 あれは当然美味い。


「そういえばですね。 エイジ様に伝えないといけないことがありまして」


 なんだ? 大司教が伝えることってどんなのだ?


「昨日、公爵と話したスライムのことを教会に伝えるために私は少しフレストブルグを離れます」

「え? じゃあどうなるんだ?」

「私がいない以外は変わらないですよ。 レナとフランツさんに頼ってください」


 じゃあ問題ないのか。 あれ、そういえばフランツさんは大聖堂には住んでないんだな。


「離れると言ってもそんな長期間というわけではない。 まあワシがエリナルの身体を完成させるくらいには戻っておるじゃろう」


 長いんだか短いんだかわからんなそれ。


「そういえばどれくらいかかるか言っておらんかったな。 だいたい3日ほどあれば作れる」


 神様の肉体って3日で作れるもんなのか? 早いな。


『3日待てば私は自分の身体を手に入れて自由になるんですね!?』


 すごい嬉しそう。 それまでは俺の頭の中で我慢して貰わないといかんみたいだけどな。


「それとワシは身体を作るのに集中するからエレナも言った通りレナとフランツを頼ってくれ」


 何かあったらフランツさんを頼るとしよう。


「それとエリナルの意識はお前さんの頭の中にある。 あまり遠くに行くと身体と意識が上手く繋がらない可能性があるからフレストブルグの周りから外には行けんぞ」


 これはそこまで気にすることはないな。 3日なんてこの街をぶらついてたらすぐ消えるぞ。


「話すことは以上ですかね。 それじゃあ私は行ってきます」

「気を付けていくんだぞ」

「わかってますよ。 レナ、エイジ様をあんまり困らせないようにしてくださいね」


 からかうエレナ、本当に大司教なのか疑いたくなる。


「からかわないでくださいよ! 頑張りますけど……」

「ちゃんと信じてますよ。 頑張ってくださいね」


 エレナは行った。


「……レナ、もしかして子供扱いされてるのか?」

「もう大人なんですけどね。 成人もして、何でも一人でできるようになってるのに……」

「この世界の成人って何歳なんだ?」


 18ではないと思うが。


「16です。 私はこの前成人したばかりですね」


 16で成人か。 中世基準だと遅いぐらいな気がするが、この世界ではそういうものなんだろう。


『女性の年齢を聞くのは失礼だと思いますけど』


 これからずっと一緒にいることになる仲間の歳ぐらい聞いたっていいだろ。


「さて、じゃあ俺も買い物に行くとしよう」

「何を買うんですか?」

「武器だ」


──────────────


 武器を買った。 無難に剣だ。 というかそれ以外が使えん。


「武器を買ったということは冒険者ギルドに行くんですね?」

「ああ、俺ができることなんて強いて言えばそれだけだろうからな」


 俺は別にこの世界に介入することができるほどの知識はない。 専門家でもないしな。 強いて言うなら時間操作で暗殺ぐらいだ。 できるかは微妙だけどな。


「あそこは冒険者、という名のなんでも屋の斡旋組織です」

「なんでも屋?」


 確かにファンタジーの冒険者はだいたいなんでも屋みたいなもんだが。


「家事から害獣駆除、大工から傭兵まで。 人によって受ける依頼は違っても冒険者というのはギルドに紹介された、もしくは掲示板に貼られた依頼をなんでもこなす職業です」


 本当になんでも屋だな。 同じ冒険者でもやることはまちまちってことか。 パーティーメンバーを探すのは中々難しそうだ。


『剣を買ったなら危険な仕事をこなすってことですよね? やるのは構いませんけど死なないでくださいよ』


 死なねえよ。 危なかったら時間を止めて離脱できるんだしな。


「ギルドはそんな冒険者たちを支援して、依頼を紹介する組織です。 ギルドの収入源は仲介費と冒険者の食事ですね」

「じゃギルドは冒険者の憩いの場でもあるのか」

「そうですね。 今ぐらいの時間はほとんど依頼をしに行ってるのであまりいないと思います」


 そうこう言ってる間に着いたぞ。 ここがギルドか。 ご丁寧に冒険者ギルドって書いてやがる。

 中はどんな感じかね。


「……想像した通りの内装でびっくりだ」

「向こうの世界でもギルドは知られてるんですか?」

「ほとんど同じようなのが知られてるな」


 知られてる、だけなんだが。


「ようこそギルドへ! 噂の外側の人(エウスランダー)ですね?」

「そうだ」


 もう噂になってるのか? さすがに早いな。


「ギルドに登録致します。 ここに手を」


 半透明の水晶のようなものに手をかざすと自分のステータスを見た時のものと同じようなインターフェースと呼べるものを映し出した。 フランツさんの時もそうだったが、この世界だとこれは普通なのかね。


「……ちょっと、この数字どう思います?」


 なんか隣の受付嬢と話し合ってる。 数字がなんだって?


「……失礼しました。 登録は完了したのであちらの掲示板から受けたい依頼を取って受けることが可能です。 その際は依頼書をこちらに再度持ってきてください。 レナ様、もし登録する場合は先程見た通りに……」


 依頼、見てみるか。

 家事手伝いに護衛任務、捜索依頼に生態調査……本当になんでもあるな。

 ん? スライムの駆除依頼か。 "スライムに畑が荒らされていて大きな被害が出ている。 駆除の協力をして欲しい"か。


「決まりましたか?」


 レナが登録を終えて来たみたいだ。


「これにしようかと思ってるんだが」


 駆除依頼を指さして言う。 一番最初はやっぱりスライムだろ。


「駆除依頼、ですか。 ちょうどいいですね。 大増殖してるスライムを駆除するのは難しくありませんし、何より大した危険がありません。 数が多くて大変かもしれませんが……」


 やっぱりこの世界でもスライムは弱いのか?


『うーん、どうでしょうかね? スライムと言っても種類があると聞きましたし……』


 今回のは強くないみたいだし、やってみようかね。


「報酬は歩合制で一体につき基本10パクス、待ち合わせ場所で詳細は説明すると…… こんな依頼の仕方するなんて、相当困ってるみたいですね」


 これを持ってけばいいんだよな?

 受付嬢に渡そう。


「スライムの駆除依頼ですね」


 あれはハンコか? ハンコを押して……なんだこれ。 例のインターフェースが出てきたんだが。

 場所が書いてあるな。 ここに行けってわけか。


「依頼の受諾を確認しました。 どうぞお気を付けて」


 なんか随分と便利だが、識字率の関係でわからないんじゃないのかこれ?


『直感的に理解できるようになってるので多分問題ないんでしょう。 依頼書だって魔法で文字が読めなくてもわかるようになってるみたいですし』


 都合のいい魔法だな。 これもギルドのおかげって訳か。


「市壁の外側ですね。 早く行きましょうか」

朝起きたら抱きつかれてたエイジさん、羨ましいぞこの野郎。

今回ようやくファンタジー要素が増えてきましたね。今までほとんど言及だけで中世後期の世界書いてただけみたいな感じだったので本当にようやくといった感じ。

エレナさんはしばらく不在です。メタ的に言うと紛らわうわなにするやめ──

ちなみに剣を買うのに使ったのは5デリでした。 安いのか高いのかわからないって? まあまあってところですかね。 ちなみにその辺に売ってある食料類は25パクスとかぐらい。 冒険者が普通に職としてあるので剣とかもそんなに高くないですね。

次回、遂に戦闘(最弱の敵)

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