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第四話 【残りのもの】

 本当のフレストブルグか。 昔からあのクソデカい城壁がある訳ないからな。

 ブルグってドイツ語だと城って意味だったよな。 こっちでも同じか。 こっちではブルクじゃなくてブルグって発音するみたいだが。


「ヴェンターナーケル大司教とヘリクス騎士団総長、ということはそこにいるのは外側の人(エウスランダー)か。 公爵がお待ちになられている、入れ」


 城の守衛だ。 前会った守衛と違って剣に加えてあれは……銃か?

 銃もあるのか、近世みたいだからあってもおかしくはないが、あれはマスケットはマスケットでも後期のやつだろ。

 銃床がしっかりある。 狙って撃つことができる構造だ。 この世界って中世から近世、なんだよな? 近世中期以降じゃないよな。


『これは多分()()()()()()の介入を受けた結果でしょうね』


 向こうから人が来れば技術にも介入が起こるってわけか。

 よく見ると撃鉄が叩く部分が赤く反射してる。 なんだあれ。 宝石みたいなものが付いてるのか? 魔法石ってやつなのかね。


 色々と気になる守衛の横を通って門をくぐる。

 ザ・城って感じだ。 高さこそあまりないがしっかりと城、というよりこれは城塞か?

 城の入口、扉にいた守衛の一人が近付いてきている。 来るのを待ってたのか?


「ここからは私が公爵の執務室まで案内します」

「はい、よろしくお願いしますね。グスタフ隊長」


 警備の隊長か。

 他のとは違う、装飾の付いた剣を持っているみたいだ。 これで隊長とわかるようにしてるんだろうか。


「ようこそ外側の人(エウスランダー)、私はグスタフ・フォン・アドラー、公爵の騎士です」

「どうもよろしく。 ところでその剣は?」

「これは騎士のアドラー家が受け継いできた剣です。 元はベルタショルツ家のものだったそうですが」


 やっぱりそういうものだったか。


「古いので実戦に耐える程のものではなくなっており、今はただの象徴になってますがね。 公爵は二階です。着いてきてください」


 あれもいつからあるんだ? 歴史が長そうだからわからんな。


 城の中は既視感がある。 多分何度も創作やらなんやらで見たようなものだ。

 しかしまあ、中々に時代を感じるな。 500年は伊達じゃない。

 居住空間としてちゃんと手入れされてるが、隠しきれない歴史を感じる。 所々にある物は新しそうなのが多いが、壁や床は500年前から形が変わっていない。

 その全てが500年前からあるわけじゃないと思うが、この城にはこの街全体の歴史が詰まっている。


「公爵は変わりないのか?」

「最近は余裕ができてきたようで、市壁外にいる農民たちの状況を確認しに行きたいと」

「最近は魔物による被害が増えておるらしいからの」


 魔物か、来るまでには見なかったが普通にいるものなんだな。

 魔物、魔物ね。 現実的に考えるとおかしいのが沢山いるわけなんだが、どういう存在としているのか。


「特にスライム被害が多いみたいですね。 急に増えて大変だと聞きました」


 スライムが増えてるのか。 特にどういう生物なのかわからないやつだ。 調べてみたいところだな。


 スライムに対する興味を持ちながら階段を登り、ある部屋の前に着いた。

 ここが領主がいる部屋か?


「公爵、外側の人(エウスランダー)をお連れしました」


 グスタフがドアを叩いて、ドアの向こうにいる人間に声をかけてから開けた。

 この先にいるのが領主。 話が長くならないことを願う。


「ヴェンターナーケル大司教にヘリクス総長……ん? 総長は珍しく正装してきているのか」


 金髪の、所謂貴族の服と呼ばれるようなものを着た男が机の前で座っていた。


「公爵、私はこれで失礼します」

「ああ。 ……大司教、無理を言ってすまないな。 外側の人(エウスランダー)と会えるのは最初で最後かもしれないからどうしても会いたくてな」


 立ち上がって前に来る。


「私はエレメライト・フォン・ベルタショルツ、外側の人(エウスランダー)、名前を教えてくれ」

「加藤 英治だ」

「立っていると疲れるだろう。三人ともそこに座ってくれ。 エイジ、私は君の世界ことが知りたい。 どんなものがあって、どんな生活をしているのか」


 公爵の顔は好奇心で溢れていた。 その顔自体は30代程のものだ。

 ……俺は公爵に何を話せばいいんだ?


『建物のこととかですかね』


 それでいこう。


「あの世界には多くの、フレストブルグの市壁と同じくらい高い建物がいくつもあるんだ」

「あの市壁と同じくらいの高さのものがいくつもか……父から聞いた通りだな…… もっと聞かせてくれ」


 俺は人の暮らし、娯楽、そして技術のことを公爵に教えた。


「……興味深い話だった。 いずれ何かのアイデアを生み出すかもしれない。 感謝する」


 随分話したな……


「今度は私が話す番だ。 大司教、総長、最近スライムが増えていて被害が出てるのは知っているな?」

「もちろんです」

「文書によると私の予想以上に多くの被害が出ているらしい。 このままスライムが増えて行くと被害が農地だけに留まらないだろう」


 そんなに増えてるのかよ。


「騎士団の力が借りたい、と」

「そうだ。 ランドベレック周辺にも影響が来るかもしれない、その周辺だけでいいから駆除を進めて欲しい」

「もちろん協力させていただきますよ。 私たちは多くの人のため存在しているのですから、苦しんでいる人達のために動くのは当然のことです」

「さすが聖女だ。 もしできるなら駆除のために冒険者達を雇う資金も提供してもらえると助かるが、そう簡単に行かないことはわかっている。 話だけでもしておいてくれないか」


 ……聖女? 後で聞いてみるか……


「構わないですよ。 教会には話しておきます。 許可が出るまでは教会資金を出すことはできませんが」

「許可されるまではワシらでやる他ない、か」

「感謝する。 私も原因の調査を進める。 すまないがしばらくの間頑張ってくれ」


 これはことが収まるまでは俺もこの街から出れそうにないな。 それ以前に自分の力を上手く扱えないし。


『明日にでも練習しましょうか』


 そうした方がいいな。


「話は以上だ。 外側の人(エウスランダー)、機会があればまた私に向こうのことを話して欲しい」

「お呼びとあらばいつでも」

「楽しみにしている」


 大司教達が外に出た。


「……一人で二人分の気配を感じた。 どうやら普通ではないらしい」


 公爵は書類に目を通す。


「スライムがこれだけ繁殖するのは珍しい……もしかすると異常な事態が起きているのかもしれん。 しかしこうなると駆除したスライムの処理も大変だな。 公国の財政は、いつも苦しいな」


 ──────────────


 部屋から出た。

 とりあえずエレナにさっきのこと聞いてみるか。


「エレナ、聖女って呼ばれてたがどういうことなんだ?」

「それはワシが話そう。 彼女は教会に聖人として列聖されておる」


 わお、すごいな。 確かに人は良いが……


「生きながらにして列聖されるのは彼女が初めてでな。 聖人になるには厳しい審査があってな、それは能力ではなく人々の意思に則っておる。 殉教者なら英雄として慕われていたか、証聖者は人々に良いことをしたかと言った具合にな」


 現代で使われる聖人とだいたい同じ感じになってるな。


「勝手に列聖されただけで私は何もしてませんよ」

「まあ、周りから見た評価じゃからエレナ自身は列聖に関して何もしておらん」


 生きたまま聖人になった最初の人間、これだけで十分な程その凄さが伝わるな。


「公爵にも会ったから、これでエージの用事は終わりかの」

「そうですね。 帰って明日の準備でもしましょうか」


 そういえば、帰るってどこになんだ?


「これ、俺はどこに帰ればいいんだ?」

「あの大聖堂は居住空間がある特別なものです。 そこでエイジ様は生活できますよ」


 どこかに宿泊施設があるとかそういうわけじゃないんだな…… 大聖堂で寝るなんて経験をすることになるとは思わなかったぞ。


 ──────────────


 大聖堂に戻った俺は居住空間の案内をされた。

 やけに大きいとは思ったが、まさかそれが居住空間だとはな。

 今はもらった自分の部屋にあるベッドの上にいる。

 とりあえず時間を確認しよう。 時計の針は午前8字を指している。 つまり何時だ?


『6時ぐらいじゃないでしょうか』


 6時か、どうりで暗くなってきたわけだ。 いつの間にそんなに時間が経ってたんだ? この街に来た時は2時ぐらいだったから4時間も経ってる。 公爵の城と住む場所の話でそんなに経ってたのか。


『公爵と結構話してましたからね』


 ああ、疲れたな。 でも寝るわけにはいかんだろ。

 この世界に来た時に後で話すって言った時間の巻き戻し、あとどうせ話してない制約もあるんだろ。 話してもらうぞ。


『……はい。 時間の巻き戻しは非常に制約が強力です。 まず1つ目に特定のものを巻き戻すことはできない、2つ目に巻き戻す際は()()()巻き込みます。 3つ目は巻き戻しても記憶はほとんど残らない、ということです』


 なんてこった。 つまり自分含めて全部戻るって訳かよ。


『正確に言えば、その巻き戻すということを実行する脳の部分が持っている記憶は戻りません。 パラドックスが起きますから』


 それでもとんでもないぞ。


『一応ですが、思い出す、というのは変ですが起きたことを知ることはできます。 何回かのデジャブを感じることで断片的な記憶を脳が補完して不完全で曖昧ですが記憶を取り戻すことができます』


 時間はかかるが、強くてニューゲームはできるわけか…… でもそんなに代償が大きいなら最終手段だな。


『次に話してない制約なんですが、来た時に自分のステータスを見たじゃないですか』


 ああ、それが何だ?


『あれのようなゲームで言うところの裏側みたいなの以外の魔法、そして魔法由来のスキルを習得することができません』


 ……は? 今までで一番大きい制約だろそれ!?

 クソ、時間以外は正真正銘自力って訳か。


『もう1つ、時間停止中は対象の運動エネルギーは影響しませんが、それそのものが持っているエネルギー、つまり質量は反映されます』


 重いものを動かすことはできないってことか。


『正確に言えば動かせます、が時間がかかります』


 なら何とかなりそうだが……


『それに関係して1つ、実は巻き戻し以外の無操作発動、つまり全体発動は限られた範囲のみ対象です』


 場合によってはかけられる時間も多くないのかよ!?

 クソ、本当にろくでもないなこの能力。


『範囲は広いので、戦争とか仲間が別の場所で戦ってるとかじゃなければ問題はないです』


 それも場合によるって訳かよ。 全く不便だな。


 ……制約の多さと起きたことの多さてもう疲れた。

 しばらく寝るか。 起こしに来てくれればいいんだが……

ベルタショルツ公は好奇心が強いですね。 別にそれが何かに直接役立つわけではないんですが知りたいから知る、という知識欲があります。

まだ6時で一日中食事すら取っていないのに寝てしまうエイジさん。 次回は2時間程寝て起きたところからです。 異世界飯を食べてお勉強する予定です。

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