始まりと終わりは同時期に
「1日の終わりは何故こんなにも早いのか、神様がいるなら聞きたいところだ」
独り言をしている俺は加藤 英治、妄想が少し激しい以外はその辺にいるただの人間だ。
俺は今、深夜テンションでイタい奴になっている。
現在時刻は深夜25時、なんでこんな時間に外を出歩いているかと言うと飲み物を補充するのを忘れていてコンビニに買いに行ったところだ。
嗜好品は現代を生きる人間にとって重要なものだ。 身近にあるのが当たり前、そんな時代が故になくなると人はおかしくなる。 そんな大事なものを忘れる俺はバカだ。
「……?」
何か変だな…… 少し前からいくら深夜とはいえ人の気配がない。 なんなら人以外の気配も全てない。 9月だから虫の声ぐらい聞こえるはずなんだが、さっきから何も聞こえない。 耳がおかしくなったか?
とりあえず落ち着いて周囲を見渡してみよう。 前は変わりない。 横も異常なし。 後は後ろだが……
──振り返ったら地面がなかった。 いや、全部がなくなっていた。 底なしの奈落だ。
いや、ちょっと待て。 地面がないということは……!?
「うおおあああ!!? いくらなんでもおかしいだろおおおおお!!!?」
俺は落ちた。 なんでやねん。 俺が何をしたって言うんだ。 ただ家に帰ってただけだろ。
こんな強引で無茶苦茶な展開、創作の世界でもそうそうないぞ。 事実は小説よりも奇なり、なんてレベルじゃないんだが。
これどうなるんだ? ずっと落ち続けて考えるのやめないといけなくなるやつか?
……そんなことはなさそうだな。 めっちゃ眠くなってきた。 どうせ死ぬんならこのまま眠って死にたいもんだな……
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うーん……眩しい。
何か聞こえる。 声か……?
あと5分寝させてくれないかな。
「何を言ってるんですか、起きなさい」
起きたらなんか神々しい服の美人がいた。 どういうことだ。
とりあえず聞いてみよう。
「これは一体何が起きたんだ?」
「あなたはトンネルに落ちたんです」
トンネルってなんだよ。 というかなんで落ちたんだよ。
「何を言ってるか理解するのは難しいかもしれませんが、あなたの世界は別の世界、いわゆる異世界と部分的に繋がっているのです」
俺はこれから異世界転生でも始めるのか? そういう雰囲気かこれ?
「……とりあえず帰ることってできるのか?」
「残念ながら一方通行ですから。 無理ですね」
まだ読み切れてない小説も漫画もクリアできてないゲームもあるんだが? 冗談は服装だけにしてくれ。
「あなたの世界の人間はこうして稀にトンネルに落ちてしまうのです。 そしてここはトンネルの中の異次元。 あなたの世界の文化で言うなら、私は異世界に転生する時に出会う女神でしょうか」
本当にそういう感じなのか? というかそんなド定番な展開、最近はそんなに見ないと思うんだが。
「向こうの世界の人間はあなたとは違う部分があり、そのままでは危険です。 なので、お約束の能力付与を行います」
お約束って言ってるよこの人。 絶対漫画とか小説読んでるだろ。
女神がそんなこと言うとは想定外だ。 いやそもそも会うこと自体想定外ではあるが。
「説明している時間はないので向こうで確認してください」
「……!?普通そういうの話してから送るだろ!?」
「事情を説明している時間もありません! とにかく行ってこーい!」
「えちょ待っ……!」
背中を押され俺は落ちた。
「二回も落ちるのかよおおおおお!!!?」
何回落ちればいいんだよ!? まさか三回目もあるんじゃないだろうな!? 二度あることは三度あるはシャレにならんぞ!!?
というか本当に説明しないで送り出す奴がいるか!?この時点でもうかなりハードモードな気がするんだが!? 能力ぐらい説明しろよ!!!
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落ちてから何分経った? 腕時計によると20分ぐらいらしいが、こんなめちゃくちゃな状態で正確なのかどうか怪しい。
……周りから光は来てないのに自分のものははっきり見える。 自分が光ってるのか、いわゆる不思議パワーなのか。 どっちにしろこの空間が普通じゃないのは確かだが。
「うぐあっ!?」
!? どうでもいいことを考えていたら急に凄まじい衝撃が……!?
痛みは感じないが、しばらく動けないかもしれない。 正直生きてるのと意識を保ててるのが不思議なくらい強い衝撃だ。
地面に衝突したのだろうか。 何も見えないし感じないからどうなってるのか分からない。 運が悪ければ死ぬな、これ。
ボヤけてるが、何とか見えてきたぞ。
綺麗な青空だ、はたから見たら日向ぼっこでもしてるように見えるんじゃなかろうか。 転生したら日向ぼっこしてた件ってか。 絶対ウケないぞ。
……ようやく体も動かせるようになってきた。 どう考えてもリハビリが必要な程の衝撃を全身に貰ったが、何とか無事だったらしい。 異世界転生して早々全身麻痺とか話にならないから助かった。
「それで、俺を一時的とはいえ死の危険に晒してきた世界はどんな景色なのやら」
起き上がって周りを見渡すと、普通に平原だった。
ラノベとかだと都合よく美少女とかが来たりいたりするんだが、さすがにそういう展開はないか。
それはそうとステータス表示とかできないものかね。 説明受けずに送られたもんだから自分がどんな力持ってるのかすらわからない。
こういう時はだ。
「オープンステータス!」
これ誰か聞いてたらめっちゃ恥ずかしいぞ。
というか本当に出てきた。 本当に出てくるとは思わなかったぞ。 そんな簡単にできるものなのかよ。
閉じる時はどうするんだ? クローズとか唱えればいいのか?
あ、閉じた。 直接言う必要はないのな。 これなら恥ずかしくない。
オープンステータス。
「さて、あの女神様はどんな能力を授けてくれたのかね」
特殊
タイム・ドミネーター、女神の加護
【タイム・ドミネーター】
時間を操作できる。
「……これ強くね?」
プロローグです