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叫べ!さすれば届かん8

【ラジオ@最杏チーム】

実を言うとこのイベントには攻略法がある。

去年のマレーシアのJAPAN EXPO出場権争奪イベントでのことだ。

カカシは『プレモニー』のオタクとして、イーグルは『ミストレス』のオタクとして参加したのだが、お互いに「あっちには負けたかもしれない」と思ったそうだ。他のオタクの数は50人程度の中で、二つは100人ずつでいい勝負だったらしい。

ところがフタを開けてみると、優勝したのは『ムカシバナシ』だった。

カカシが調べてわかったのは、こういうことだ。プレモニーのオタクは、もちろん1位にプレモニーと書く。しかし2位にミストレスを書くと負けてしまう可能性があるから、ミストレスを3位以内に書かない。ミストレスのオタクもプレモニーの名前を書かない。そうしてみなが2位に名前を書いたムカシバナシが優勝したわけだ。

これはオレたちだけが知ってる攻略法だ。カカシはアニマル武士道とアルカナアイドルの、イーグルはテロ-リズムとアイロックの、トラウトはキレイの、オレはとりあえず女子の、そしてラビットちゃんは元々ガーデンプリンセスを二推ししていたのでそこの、それぞれのオタクに「2位にニジドリを書いて」もらうようにお願いしてまわった。これでいけるはずだ。

よく『二推しは作るな』というけれど、単推しじゃなくDDしていた方が良いこともあるんだ、と学んだよ。


【アオイ】

『優勝は…………虹色ドリーミングです!』

『やったあああーーー!』

ドリーマーが飛び跳ねている。えっ?なんで?

「アオイ様ぁやったぁ。やったよぉ」

杏花が泣きながら抱きついてきた。えっ?

勝ったのか。あたしたち……掴み取ったんだ。

あたしは目を閉じて綾香に「やったよ」と伝え、その後拳を高く突き上げた。

『では、優勝した虹色ドリーミングにはウイニングランでもう1曲お願いします』

あっ。あー。あー。やっぱり。

「ごめん。あたしもう声出ない」

ミオタンがうなづいて言った。

「虹の彼方へ、でお願いします」

『はい。では……あっ、ちょっと待ってください』

何だろう?音響トラブルかな?

『虹色ドリーミングの運営さんからお話しがあるそうです』

高梨社長だ。

『ニジドリのみんなおめでとう。ドリーマーのみなさん、応援してくれたみなさん、本当にありがとうございます。実は大事なお知らせがあります』

『やめないでーー』

『わははははは』

『虹色ドリーミング、8月6日にTIFに出演することが決まりました』

『おおおおおおお』

嘘?!えっ、本当に?


うだるような暑さ。雲一つない真っ青な空。

たぶん今日は40℃近くまで上がるだろう。

ミオタンが携帯用扇風機を顔に当ててる。

「虹色ドリーミングさんお願いします」

「よーし」

ミオタンが扇風機を置いて立ち上がる。みんなで円陣を組んだ。

「ニジドリ、TIF楽しもう!」

『おーーー!』

今日は1曲目ソウルスクリームのイントロが流れる中、あたしたちは野外ステージへ。

うわっ!人、人、人。見渡す限りの人。ドリーマーはオリジナルTシャツを着てるから一目で分かる。

「おまえら、今日は死ぬ気でかかってこーい!」

綾香、見えるよね。

あたしたちはかつてアイナが立ったステージに立っている。

アイナが見たのと同じ景色を見ている。

SBYグループは今年も全員、って全部で何人いるかよく知らないけど、とにかく全員出る。

そんな大きな大きなステージにあたしたちは今立っている。

来月には日本を代表してフランスのパリのステージに立つ。

綾香。

あたしが連れて行ってあげる。あたしの夢。二人の夢。

≪ソウルスクリーーーーーーーーム≫

あたしは一人じゃない。いつも綾香がいっしょだ。綾香!いくよ!叫ぶよ!

≪ソウルスクリーーーーーーーーーーーーーーーーム≫


「よいしょ、あれ、届かない」

「ユキ、はい」

「あ、カレンありがとう」

「えぇ、わたし窓側がよかったぁ」

「じゃあ私と交換する?」

「ミオタンいいのぉ?」

「ユリポンはそれ何持ってきたの?」

「向こうだと日本食が恋しくなるかもって」

「今は日本食ブームだし、JAPAN EXPOっていうぐらいだからたぶん何でも売ってるよ」

あたしは最初から窓側。黙って窓の外を見てる。

実は……あたし飛行機に乗るの生まれて初めて。

だから窓側は誰にも譲らない。そして、今とても緊張してる。

こんな物が果たして本当に飛ぶのか。落ちたりしないのか。

13時間も乗っていたらエコノミークラス症候群にならないのか。

機内で「ビーフorチキン」って聞かれるというのは本当なのか。

ビールは飲めるのか。まあ他のお酒でもいいけど。

パリでは日本語は通じるのか。ホテルは。タクシーは。食事は。

そもそもライブはフランス語じゃなくていいのか。練習しておかなくていいのか。

ソウルスクリームってフランス語で何て言うんだ。

あっ、動いた。うわっうわっ。

飛行機が加速して背もたれに押し付けられる。

うわっ、浮いた。

あたしたちは今飛行機と一体になって飛び立つ。


これであたしと綾香の話は終わり。

でも、あたしたちの物語はまだまだ続く。



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