冒険家
とある会見場。着席、挨拶、飛び交うカメラのフラッシュ、と一連の流れを終え、質問の時間。集まった記者のうちの一人がマイクを手に取る。
「東栄新聞です。えー、横浦さん。今回また一つ偉業を成し遂げたということで、まずはおめでとうございます!」
『……ありがとうございます』
「日本、いや、世界最高齢の冒険家がまたエベレストの登頂に成功ということで、今のお気持ちをお聞かせ願えますでしょうか」
『……はい、支えてくれたチームメンバーや出資、応援してくださった皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです』
「なるほどー……えー、ではエベレスト挑戦中の苦労話などをお聞かせ願えたらと思うのですが……横浦さん」
『……そうですねぇ、まぁ私は正直苦労はしてませんねぇ。見ての通り、この老体ですからね。はははは! 仲間に背負ってもらってね。まあ、軽かったでしょうけどね、強いて言えばちょっと肌寒かったことかな! ははははははは!』
「あ、あはははは……」
『ゴホン……はははははは!』
「ははははははは!」
「ははははは!」
「ハハッ! ハハハハハハッ!」
「ははははははっ」
『悪いね。笑うよう強要しちゃったみたいで』
「ああ、いえ、はい、あ、そんなことないですよ、ははははは……」
『他の方、どうぞ。はい、そこの』
「はい、中央TVです。えーでは横浦さんはこれまでエベレストもそうなんですが数々の山や、それだけでなく深海や砂漠横断、ジャングルの川下り、さらにヨットで世界一周にえっと活火山やそれと――」
『質問はよく考えを纏めてからにして欲しいですねぇ。ほら、こっちもね余命が残り少ないもんだから』
「あ、申し訳ございません……」
『ジョーダン! 冗談だよ! ははははは!』
「あ、あは、ははははは!」
『ん?』
「ははははは!」
「はははははははっ!」
「ははっはははははっ!」
「ハハハハハハーハッハッハッハ!」
『よしよし、で、聞きたいことはなに?』
「えっとですね」
『あ、やっぱり次の方ね。あ、これ笑わなくていいよ。冗談じゃないから。ローカルさんは座ってて』
「あ、じゃあ、ジェイニュースの者です。横浦さ――」
『あ、待って。そこウェブじゃない? おたく、あんま見られてないとこでしょ。大手がいいなぁ、ほら、時間が限られてるからさ』
「あ、うちは日本新聞のウェブサイト版でしてアクセスも多いほうだとは思うんですけど……」
『あ、日本新聞さん!? こりゃうっかり。ごめんなさいね。勘違いしてたよ。ほら、脳みそもさ、歳のせいでちっちゃくなったものだからさぁ。ははははははは!』
「ははははは!」
「あははははは!」
「はははははっ」
「はははっ」
「ハハッハハッハハハハハハッ!」
『うん、そこの人。さっきから笑い方がわざとらしいね。気をつけようか。で、質問をどーぞ』
「あ、はい……えー、では横浦さんの次の冒険先は」
『さすがだねぇ。よく聞いてくれましたよ。次はね……火星かな! 月は行ったからねぇ!
それでなんだけどね、スポンサーさんのほうを募集しますんでね、皆さんどーぞよろしくお願いしますね。また大手新聞社さんもね。ご支援をお願いしますね。じゃあ、そろそろ、ね、ん? なに? きみ』
「週刊英修です。あの、横浦さ――」
『週刊誌の記者の方の質問には答えたくないそうです。はい、終わります』
「待ってください! 冒険は本当にご自分の意思なんですか! あなたの声をお聞かせください!
資金集めのため利用されているとの声もあるんですよ! 高級クラブで遊び歩くあなた方チームメンバーの写真が――」
『おい、早くそいつを摘まみ出せ! と、横浦は言っています。おら、さっさとしろ!』
御年145歳。偉大なる冒険家、横浦氏の口から直に語られた最後の冒険先は死後、その骨を小型ロケットで空へ打ち上げてもらい、宇宙空間を旅する事であったが、生命維持カプセルの中、高麗人参のような姿になってもまだまだ彼の冒険は終わりを迎えさせては貰えないようであった。