第2話 義妹ですけど何か
「フラン、お母様ね、国王陛下の側妃になったのよ」
は? 金髪で美魔女と呼ばれる母です。才女のはずなのに、突然、とんでもないことを言いました。
父が亡くなってから、侯爵としての仕事は叔父が務め、母は王宮で働いています。
「お母様は、王妃様の侍女ですよね。側妃のことは、王妃様はご存じなのですか?」
あの王妃は、側妃なんて認めない、厳しいタイプに見えましたが。
「そうなの、王妃様が、推薦して下さったのよ」
驚きです。そういえば、お母様は王妃のお気に入りでした。でも、不思議です。
お母様は、王妃の専属メイドの役目まで、こなしていると聞いています。まさか……
「王妃様は、私に、勤務時間の他、24時間、そばにいて欲しいと、言ってるのよ」
それって、国王の側妃ではなく、王妃の側妃ですよね。
◇
「義妹ちゃん」
教室のいつもの後ろで、クロガネ君が、私の頭をなでてきました。
「もう、知っているのですか」
私の母が、彼の父の側妃になりました。
「俺の方が誕生日が、半年ほど早いから、俺が義兄だからな」
彼は、今までにないくらい嬉しそうです。
「王宮での受け入れ準備が出来たら、フランちゃんも、王宮に移り住んで、俺と寝食を共にする、家族でちゅよ」
「私は赤ちゃんじゃありませんし、移り住むなんて聞いていませんよ」
ご機嫌なクロガネ君に、私は反論します。
「たとえ、移り住んでも、食事は一緒でも、寝室は別でしょ! あんたバ……頭をなでるな」
クロガネ君が、私の頭をなでてきました。
「ところで、今夜、また、婚約者の投票が開催される」
「私も参加するように、神官長から言われています」
今夜も荒れそうだと、黒い瞳が語っています。
「フラン様、お話を聞いていただけませんか」
突然、新しく婚約者候補になった伯爵令嬢が、二人で私を訪ねてきました。
令嬢たちは、学園の後輩だったようです。
「俺も一緒に話を聞こう。なにせ、俺はフランちゃんのお義兄様だからな」
「……」
クロガネ君の冗談は、スベったようです。
彼女らにとって、第二王子は雲の上の存在なのですから、笑いよりも、威厳を大事にしてください。
「私たちは、第一王子様の、ただの取り巻きなんです」
令嬢たちが話し始めました。
「上手くいけば側妃、無理なら王族の侍女になることを夢見ていただけなんです」
「あの日、第一王子様から呼ばれて、ウキウキ気分で出かけたら……」
「まさか、あのような事態に巻き込まれるなんて、本当に申し訳ありませんでした」
令嬢たちから、謝罪がありました。
そして、今夜の投票に、もう一人、取り巻きの令嬢が呼ばれているそうです。
◇
「僕は、この侯爵令嬢を婚約者候補から外すことを、この場で宣言する」
第一王子が、栗毛をかきあげて、またもや宣言しました。婚約者選びの会場は、またザワつきました。
「なぜですか? 私も、他のお二人も三大侯爵家の令嬢として、慣例に従い、この場に立っているのですよ」
最後まで残っていた三大侯爵家の令嬢が、あきらめたような顔で、尋ねます。
「この伯爵令嬢を、新しく、僕の婚約者候補とする」
またまた、可愛らしい令嬢が、第一王子の横に寄り添いました。
候補なのに、なぜ寄り添うのか、令嬢は、困ったような顔ですが、第一王子は、まったく意に介していません。
事前の情報どおりです。
これで、三大侯爵家の令嬢が、全て婚約者候補から外されました。
「今回も、新しい婚約者候補の紹介というだけにして、一旦終了させていただきます」
司会の神官長も、もう自棄になっているようです。
「第一王子様、国王陛下をはじめ、三大侯爵家、貴族院の方々まで、大変混乱しておられます」
「さらに、最後の婚約者候補様まで外すとなると、もう何が起こっても不思議ではありません」
司会進行を務めていた神官長が、第一王子に釘を刺します。しかし、“馬の耳に念仏”のようです。
「そんなの僕に関係ない。そうだ、この三人の令嬢を、まとめて妻にしよう」
「これにて一件落着、わはは」
第一王子は、これまでになく嬉しそうです。
「これは、私たち三人が集まって、お話し合いをしたほうがよろしいようですね」
三大侯爵家の令嬢3名が集まったタイミングで、一番年上の令嬢が、提案してきました。
「同意します」
第一王子に愛情がない私でも、さすがに、この状況はマズいと思っています。
「明日、集まりましょう」
「フラン様、湯浴みはお好きですか?」
「王宮には、大きな浴場があるのですよ。明日は、貸し切りにしますので、私たちと、ご一緒にいかがですか?」
年上の令嬢が、3人での湯浴みに、誘ってきました。裸の付き合いというやつですね。
◇
「こんな場所があったのですね」
大きな浴場で、私の声が響きます。
大きな馬車2台がウマごとスッポリと入りそうな広さで、半分近くが温泉になっています。
体を温めた後、マットに横になります。令嬢のお二人が、私をマッサージしてくれるとのことです。
植物性のローションという、アロマオイルとは違うものを使うそうです。水に溶けるものだと聞きましたが、トロミがあって、初めての感触です。
「フラン様、少しよろしいですか」
気持ち良くなったころに、話しかけられました。
「第一王子様のことを、どう思っていらっしゃるか、お聞きしたいのですが」
ん? 恋バナでしょうか。
「幼い頃から、第一王子様の婚約者となるよう教育を受けてきましたが、愛情とかは無いです」
正直に答えます。
「それよりも、王妃となって、この王国の安泰を継続させる政治について、厳しい教育を受けてきました」
王妃教育は大変でした。学園の勉強以外に、さらに勉強させられるのですから。
「私たちと、少し違いますね。私たちは、どうすれば王妃になれるか、という教育でした」
「このマッサージも、その教育の一つです」
彼女らの教育は、私と少し違ったのでしょうか?
「マッサージには、叩く、揉む、さするがありますが、ご希望はありますか」
そうだったのですか、全てが気持ち良いのですが……
「そうですね、私は、さするのが好きです。体の魔力を流す感じがたまりません」
身体に滞っていた魔力が流れ、スッキリする感じが好きです。
「面白い感想ですね、参考になります」
「神官長に使った魔法は、治癒ですよね?」
治癒魔法は、皆さんが使えると思っていましたが、どうも違うようです。
「そうです」
「私は、以前は治癒魔法をよく使っていましたが、この王国に贈られてきてからは、王妃教育が忙しくて、使っていなかったのです」
久しぶりに使うので緊張したのですが、上手くいったので、ホッとしました。
「第二王子様とは、良い関係のようですね」
「え、親友です」
まさかの、クロガネ君の話になりました。
「頭を撫でてもらえる親友ですか」
あら〜、見られていましたか。
「ライバルの事を調べるのは、戦いの基本です」
「そして裏で手を結ぶのも戦略です」
「私たち二人は、手を組んでいるのですよ」
マッサージをしてくれるお二人は、友人関係なのでしょうか?
「婚約者選びでは、お互いに投票しあって、フラン様が投票した方が王妃に、残った方が側妃になるはずでした」
なるほど、私が悩む必要は無かったのですね。
「それは良い考えです。私は、のんびり余生を過ごしたいです」
「それは本心のようですね、体が全く反応しませんでした」
「第二王子様の話になると、あからさまに身体が硬直したのに……」
ひ~、バレていましたか。
お読みいただきありがとうございました。
サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。
よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から、作品を評価して頂ければ幸いです。
面白かったら星5つ、もう少し頑張れでしたら星1つなど、正直に感じた気持ちを聞かせて頂ければ、とても嬉しいです。
いつも、感想、レビュー、誤字報告を頂き、感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。