第1話 義姉ですけど何か
「フラン義姉さん」
同級生で幼馴染でもある第二王子が、冗談半分で、私に声をかけてきました。
教室の中、私の席は最後尾の窓側です。
たまたま、周りに同級生がいなくて、誰にも聞かれなかったのが、幸いです。
「クロガネ様、冗談はお止め下さい」
私は、ポニーテールの銀髪を揺らし、彼の方に体を向けます。
彼は、黒髪のイケメン、第二王子のクロガネ君です。
「冗談ではない。フランが兄と結婚すると、俺は思っている」
彼の目は本気ですが、艶やかで黒い瞳の奥に、辛い気持ちが見えます。
私は、第一王子の婚約者候補です。
婚約者候補は3人と決まっており、その中から、婚約者を決めます。
「第一王子様の結婚相手は、婚約者候補3名が自分以外の候補に投票し、多数決で決まります」
この国の古くからの慣例です。
「政略結婚か」
彼が、つまらなそうに、つぶやきます。
「今夜、その投票を行いますので、不用意な発言は、控えて下さい」
彼を嗜めます。
「すまない、俺がどうかしていた」
第二王子の発言で、投票に影響があったなどと噂が立っては、彼にとって良くはありません。
でも、彼の複雑な心境も分かります。
「もし、私が、義姉になっても、これまでどおりの友人でいてくれますか」
私の意地悪な問いかけに、彼は、窓の外に視線を移しました。
青空に一つ、はぐれた白い雲が浮かんでいます。
◇
「僕は、フラン嬢を婚約者候補から外すことを、この場で宣言する」
第一王子が、栗毛をかきあげて、宣言しました。
婚約者の投票が、御前会議が行われる大きな会議場で行われています。
会場にざわめきが起きます。
滅多にないイベントなので、見物の貴族が数多く集まり、見守っています。
婚約者候補3名が、自分以外の、王妃にふさわしい令嬢へ、無記名で投票し、得票の多い候補が婚約者に決まります。
婚約者候補は、三大侯爵家と呼ばれる高位の家系から選出された令嬢です。
王族の血を濃くし過ぎないよう、三大侯爵家では、優れた令嬢を探し出して養女とし、婚約者候補として特別に育て上げるのが慣例となっています。
「なぜですか? 私は三大侯爵家の令嬢として、慣例に従い、この場に立っています」
第一王子に、婚約者を選ぶ権限はありませんし、婚約者候補を選ぶ権限もありません。
「それがおかしいと言っている」
「僕の妻になる令嬢を、三大侯爵家からしか選べない、しかも選ぶのは僕ではない」
彼の言うことは、普通であれば、まともな話です。
でも、彼の立場は普通ではありません。王位継承権第一位の第一王子なのです。
第二王子でさえも、いや、貴族であれば誰もが、政治的な影響を考え、王国の安泰のため、政略結婚する覚悟を持っています。
それが、貴族の義務だと、分かっているのに……
「この伯爵令嬢を、新しく、僕の婚約者候補とする」
可愛らしい令嬢が、第一王子の横に寄り添いました。
まだ、候補なのに、なぜ寄り添うのですか。マナー違反の、はしたない行為です。
伯爵令嬢は、それが分かっているようで、困ったような顔をしています。
しかし、第一王子は、まったく意に介していません。
三大侯爵家の他の二人の婚約者候補も、初めて聞いたような顔をしています。
お二人は、私よりも年上で、落ち着きのある令嬢です。
「第一王子様による新しい婚約者候補の決定を、心よりお喜び申し上げます」
私は、ワザとらしく、彼に嫌味を投げつけました。
「第一王子様、予定された進行から、だいぶ離れてしまいました」
司会進行を務めていた神官長が、事態の収拾に務めます。
「今回は、新しい婚約者候補の紹介というだけにして、一旦終了させていただきます」
「わかった。明日、もう一度、開催しよう」
第一王子が、ニヤリと笑いました。
◇
失意のまま、屋敷に帰りました。
「フランお嬢様、湯浴みの準備が整いました」
メイドが来ました。ひと風呂浴びて、気分をスッキリしたいです。
湯船で温まった後、母に近い年齢となった専属メイドが用意した温かいマットに横になります。
マッサージが始まりました。
香りのよいアロマオイルです。
筋肉が凝り固まった所は強くもみほぐし、敏感な所は優しくさすってくれます。
「そこ、気持ちイイ」
私が、そこと思う所を、気持ち良い強さで、さすってくれます。
メイドにも身分制度があり、彼女は、主人の体を触ることが出来る一級メイドです。
「王宮には、さらに腕の良い特級メイド様がいます。私のあこがれです」
十分に腕の良いメイドですが、さらに上のメイドがいると言います。
私が、王子と結婚すれば、その特級メイドさんに、会えたかもしれないのに……
◇
「婚約者候補から外されました」
教室の後ろで、クロガネ君に話します。
「聞いた。兄がすまなかった」
クロガネ君は、困ったような顔をしています。
「これからは、義姉さんと呼んでもらえませんね」
私も困ったような顔をします。
「これからは、フランは俺の一番の親友だ」
彼の言葉に、驚いて顔を上げると、黒い瞳が、私を吸い込みそうです。
「友人ではなく、親友ですか?」
「そうだ、唯一無二の親友だ」
「今夜、また婚約者の投票が開催される」
彼は、第二王子の顔に戻りました。
「実は、私も参加するようにと、神官長から言われています」
第一王子から、私を婚約者の候補から外すと言われましたが、正式には、まだ婚約者候補のようです。
◇
「僕は、この侯爵令嬢を婚約者候補から外すことを、この場で宣言する」
第一王子が、栗毛をかきあげて、またもや宣言しました。
私は、会場の隅で、天を見つめます。煌びやかなシャンデリアが、むなしそうです。
婚約者選びの会場は、ザワついています。
「なぜですか? 私は三大侯爵家の令嬢として、慣例に従い、この場に立っているのですが」
宣言された侯爵令嬢が反論します。
「この伯爵令嬢を、新しく、僕の婚約者候補とする」
第一王子は、質問には答えず、自分勝手に、またもや、可愛らしい令嬢を、横に寄り添わせました。
令嬢は、困ったような顔ですが、第一王子は、まったく意に介していません。
三大侯爵家で一人残った婚約者候補も、初めて聞いたような顔をしています。
「第一王子様、私は事態が理解できず、頭が混乱しています」
司会進行を務めていた神官長が、胸を押さえています。心拍数が上がり、脈が乱れているようです。
「今回も、新しい婚約者候補の紹介というだけにして、一旦終了させていただきます」
「わかった、日を改めて、開催しよう」
第一王子はニヤリと笑います。
私は、神官長のそばに寄って、治癒の魔法をかけます。
私たち三大侯爵家の婚約者候補は、養女です。
王族の血を濃くしないことも理由ですが、魔法のスキルが高い令嬢を探し、王族の血筋の力を高めるために使われる、道具です。
私は、友好国から贈られた幼い少女だったそうで、治癒のスキルがあります。
「助かった、感謝する」
神官長の額から汗が消え、落ち着いた様子に戻りました。
「いえ、目の前で困っている方がいたら、助けるのが人の道ですから」
「フラン様は、治癒の魔法を使えるのですね」
三大侯爵家の令嬢たちも、驚いています。
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