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第五十話 大罪

自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。

近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする七つの大罪。勝敗の軍配はいかに。

「せや、その認識で大丈夫やと思うで。ウチの店も安全区域では無くなってしもたなぁははは。」

《笑い事じゃないだろう…。だがまぁ分かった。七月二十四日…今から一週間後だな。なら十分手配も間に合うだろう。私達が周囲を張っておこう。》

「ほんま助かるわ、頼むで。」

《あぁ、それじゃあ私はまだ仕事があるから。》

「あいよ、ほなな。」

紅煩が電話を切る。フューエルは以前捕まえたベルゼブブを保管するラボに向かいつつ思考を巡らせる。

《(ルシファーは紅煩の居場所を割り当てたんだ…?そもそも紅煩を見つけたとてあいつの目的である七つの大罪の完成に紅煩は関与していない…。手紙を用意してまで…。それに紅煩の作戦を通すならベルゼブブを奪われかねない。しかし実物を出さないと奴は裏切ったと判断して紅煩を殺すだろう…。どうしたものか…。)》

もうすぐラボが見えてくる辺りで、門番からの通信が入る。

《門番か、珍しいな。どうした?》

《そ、それが…お客様でして…隊長殿に話があると…。》

《あー…私は今忙しい、悪いが帰してくれ。あーでも特徴くらいは聞いておこう。どんな客だ?》

《紫色の髪の…その…目が大きく開いてる不気味な方です…。》

《…分かった、すぐに行くからそいつを刺激しないようにしてくれ。》

《承知しました…。》

通信が切れ、フューエルは足を反対方向へ翻し天界の入り口へと急ぐ。ものの一、二分で入り口に着いたフューエルは門番を下がらせて彼女と対峙する。

《…天界に来てまで何のようだ、デスマーチ。》

〈先に一ツ。ワタシは今日ハ戦いに来タのではありマせん。警告ニ来ましタ。〉

《警告?》

宣言通り、いつも持っていた鎌を持っていない上、出すそぶりも見せないデスマーチを見てフューエルもヴァルキリーをしまう。

〈えェ、恐らく連絡は来てルと思いマすが紅煩サンにルシファーかラの呼び出シがかかりまシたね?〉

《何故それを?》

〈ワタシは情報通なノです。それは置いておイて、本題でス。ルシファーは彼女に契約を持ちかケる気でいまス。〉

《なんだと?》

〈その契約。渋っテ時間を稼いデも良イので、必ず一度ハ成立させてクださい。先に一ツ伝えておきマす。ワタシはもウ敵でハありまセん。以上でス。デハ。〉

それだけ言って本当に去ろうとするデスマーチにフューエルは声をかける。

《お前まさか…私達に演技をしろと?》

〈さァ?どう受ケとるかハ貴方達次第でスが…奴を討ツ絶好のチャンスでスよ?〉

横顔だけ見える程度に振り向いてそう言ったデスマーチは、そのまま天界を降りて行った。



《…なるほどね。彼女、今までの感じからしてフューエルちゃんには嘘を吐かないタイプだと思うから、多分本当だろうね。ルシファーを討つチャンスと言ってるし、信じてみる価値はある。》

《しかし、彼女は幾度となく私達を襲ってきています。》

《それも事実だけど、今までの戦闘で彼女、何度もフューエルちゃんを殺すチャンスがあったのに殺さなかったよね。》

《…それは…》

《彼女、ルシファーの部下なんじゃないかな。裏切る気満々の。》

《…分かりました。では…紅煩にも伝え、彼女が一時的にでも仲間になると考え作戦を立ててみます。》

《実際彼女が仲間になるなら相当心強い力になるはず。頼んだよ。》

《承知しました。》

フューエルは通信機器を取り出しながらエデンの部屋を出る。


そして、ルシファーの手紙に記されていた日が訪れた。辺りはどんどん夜に落ちていく。何の変哲もないような公園の、座れるほどのスペースのある滑り台に紅煩は座っていた。そのままじっと待ち、九時になった瞬間。先程とは違う異常な気配を感じる。

【おぉ、これはこれは。待たせてしまいましたね。】

「ウチは今さっき来たとこや。気にせんでええ。それで、さっさと本題に入ろうや。…ウチに何の用や?」

【せっかちですねぇ…。まぁいいです。貴方…フューエル達天使に手を貸していますね。】

「そうだ…と言ったら?」

【私と契約しませんか?内容は…そうですね。貴方から天使達にベルゼブブを貴方に渡すように交渉する代わりに、私からは襲われた際に即座に護衛いたしましょう。貴方の妖怪…猫又や八咫烏だけでは心許ないでしょう?】

「(やっぱ見とったな…。塗り壁のブラフに飛ばしておいて正解やったな…。)」

紅煩が滑り台から飛び降り、ルシファーと一直線に対峙する。

「(ここまでは作戦通り…。)」

「ほな、ちょっと考えさせてもらいますわ。フューエルはんにも連絡して聞いてみな交渉もクソもあらへんからな。その返答次第で変わってくると思うで。」

【流石は商売人!話が早くて助かります。私は黙っておきますので、どうぞご連絡くださいな。】

紅煩が携帯を開き、フューエルに電話をかける。

「あぁ、もしもし?フューエルはん?…あぁ、今や!」

その発言と共にルシファーが紅煩の元に飛びキリかかるも、フューエルが紅煩を抱えて大きく飛び退く。

【ふむ…やはり来ていましたね。以前よりも気配を隠すのがお上手だ。しかし、以前彼女に天界に行かせた時点でおおよそベルゼブブの場所は分かっています。】

ルシファーが腕を広げると、両者の背後に黒い渦が現れる。ルシファーの背後からはデスマーチ、紅煩とフューエルの背後からはベルゼブブの入ったケースが出てきた。

【さて、これで実力差は明白ですが…そうですね。フューエルにもチャンスが無ければ不公平です。】

デスマーチは無言で鎌を取り出し構えている。

【私と契約しましょう。そのベルゼブブを渡してくれれば、今後一切貴方には危害を加えないと約束しましょう。】

《なんだと?》

【決して悪くはないと思いますけどねぇ。何があっても貴方を襲わないと言っているのだから。】

フューエルは紅煩を自身の背後に回らせ隠れさせている。

《…確かに、私の命をかけるのなら悪い話ではないだろう。…だが、その話を持ちかける相手を間違えたな。》

その瞬間、ルシファーが異常に気付く。自分の背後の渦がいつまで経っても閉じていない事に。その渦から大きな骨の手が現れルシファーを拘束する。

【ぐっ…まさかこいつの能力は…】

「せや、その餓者髑髏の力は触れた相手の能力を使えなくする効果やで!これでもう飛んだり暴れたりできへんな!!」

【確かに…私一人相手なら有効でしたね…。しかし…使うのが遅すぎたようです。】

ルシファーが見えない表情でも確かに笑った時、そばにいたデスマーチが餓者髑髏の腕を切り落とす。

【さて…交渉決裂という事で…。私は無理矢理にでも彼を奪わせてもらいましょう。デスマーチ、彼女らをー】

その瞬間、デスマーチが連撃するようにルシファーの腕を切り裂き蹴り飛ばす。

〈はァー、やっと隙が出来マしたね。無言でいルのも辛イものですネ。〉

デスマーチが頭をかきながらフューエル達の方へ歩いてくる。

〈意図が伝わッていたようデよかっタです。ワタシ一人でハ勝てるか怪シいですかラね。〉

《第一フェーズが成功しただけだ、来るぞ!》

フューエルが再び戦闘の構えをとる。暗い夜空を照らすような緑色の光を放ちながら飛び立ち、デスマーチが鎌の内部に溜めた魂を使い鎌を強化する。吹き飛ばされた際の瓦礫の中からルシファーが現れる。

【…日頃から信用はしていませんでしたが…。やはり裏切り者でしたか、デスマーチ。】

〈はなからアンタの味方ヲした覚えハねーでスよ!〉

フューエルが飛びかかるとほぼ同時にデスマーチも走り出し、ルシファーとの戦闘が始まる。紅煩は巻き込まれないように距離をとりつつ、ベルゼブブを盾にするようにケースの裏へ退避する。

ルシファーを含め六体分の強さとなっている為か、二人がかりでも苦戦している。爆発音や風切り音が鳴り響く。何十分と戦うも、紅煩の隠れている方にデスマーチが吹き飛ばされる。土煙が消え姿が見える頃、デスマーチが傷だらけの致命傷を受けているのが見える。紅煩はすぐに駆け寄るも、デスマーチはそれを拒否する。デスマーチが飛ばされたのと同じくらいに、フューエルも耐え切れずライトニングコアが解除され大ダメージを負う。

デスマーチが残りの魂を使いスモークを張った後、大ジャンプでフューエルの元に行き白い球体のような結界を張った。

その結界が張られた瞬間、周囲から警備隊の隊員達が出てきて戦闘を始める。その内の一部が紅煩を非難させる。しかし、それも数分しか持たず生き残ったのは紅煩と避難させた隊員のみだった。

【消えないという事はまだ生きてるでしょうが…今は再起不能でしょう。さて…】

ルシファーはそのままベルゼブブのいるケースを切り裂き、ベルゼブブを殺害し溶ける前に取り込んだ。

五十話。折角捕獲に成功しても、してやられては意味が無いですね。

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