第四十一話 失踪
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。
渦に飲まれ、明らかに異質で真っ白な空間に飛ばされたフューエル。しばらく落ちていくような、飛んでいるような不可思議な感覚と共に光が強くなっていく。フューエルは幾度となく元の世界に戻ろうとヴァルキリーを動かそうとするも抵抗虚しく別の空間に放り出された。出口に近付くにつれ、ヴァルキリーが消えている事も知らず。
「…ここは…学校か…?」
放り出された後のフューエルは校内と思わしき場所に座り込んでいた。
「ヴァルキリーがない…それにこの服装…。」
いつもの服装ではなく、高校の制服にクリーム色のセーターといった感じの服装になっている。
「どういう事だ…?それに視界も何か白くぼやけているような…」
混乱したまま辺りを見回していると、フューエルに向かって同じ制服を着た二人組が走ってくる。
「やっと見つけた!!本当霞ってすぐどっか行っちゃうんだから…。」
「えー…と…?」
「えーとじゃないでしょ、もう授業始まるよ!」
もう話しかけてきた方ではないもう一人がそう言ってフューエルの手を引いてどこかに向かって走り出す。フューエルはなされるがままに走っている。
「ふ、二人の名前って…」
「えー?もしかして忘れちゃったの?」
「私が望実で、あんたの手引っ張ってるのが夏織でしょ!もう二年目じゃん!」
「あー…ごめん…」
「もーしっかりしてよ!」
「(この二人…どこかで会った気が…霞って…?)」
走っていく途中、進むにつれ記憶がどんどん混濁していく。突然強い光に包まれ、気付いたらグラウンドにおり体育の授業の中にいた。
「(次々景色が変わる…)」
ぼんやりしていたフューエルに向かってボールが飛んで来てぶつかる。
「珍しいじゃん、霞がキャッチボールミスるなんて」
先程の夏織と名乗った少女がドヤ顔でボールを持っている。
「(やっぱり何かおかしい…もしかして…私が人間だった時の景色か…?)」
フューエルは辺りを見回し始める。フューエルの視界は変わらず、どこか白くぼやけているままだった。
「(このぼやは私の視界から円形になってる…確か入ってきた時の渦も円形だった…てことは!)」
フューエルは突然走り出す。夏織や望実、先生と思われる人物からも止める声がかかるもそれを聞きもせず走り続ける。ただ一言、大声で叫んで。
《皆ごめん!!!》
白いぼやは霧のように固まり、フューエルの周りを囲んでいる。その中ではグリッジが走るようなエフェクトがかかり、人間の頃のフューエルと天使のフューエルが混ざったような状態になっている。フューエルを頭痛が襲い続けるも、諦めずに出口を探し続ける。だんだん走れなくなってくる程の痛みと戦う中、白い霧の中に黒い穴を見つける。その穴に近付くにつれノイズでまともに聞き取れない通信が早送りにように流れ始める。そこが本当に出口かどうかの確証は無いが、フューエルはそれでも行動を起こし、飛び込んだ。
奥に落ちていくにつれ、ノイズと頭痛が治っていく。穴の中は深淵のように真っ暗だったが、少しずつ光が見え始め、それはどんどん強くなっていく。穴の外に再び放り出される直前、ノイズが完全に消えヴァルキリーが再出現する。
[システム、オールグリーン。緊急飛行ユニット、展開完了。]
穴の出口がフューエルを出すまいと閉じようとしていく中、ヴァルキリーが飛行ユニットを展開し加速したおかげで脱出に成功する。だがギリギリだったようで、フューエルが飛び出してきた直後に穴は閉じ、完全に無くなった。
[最後の起動:七日前。共有されたデータの読み込みを開始。]
《一週間も経ってたのか…。》
元々いた山の中で通信機を取り出した瞬間、爆音でストライクからの着信が鳴り響く。
《フューエル!!お前一週間もどこ行ってた!!!》
《うるさいな……言われなくても報告書は出すっての…》
《…フューエル?泣いてんのか?》
《…は?》
そう言われてフューエルは初めて自分が涙を流していることに気付く。
《……いや、何でもない。大丈夫。ただちょっと…旧友に会えただけだ。》
《…?…そうか、まぁ何はともあれ早く帰ってこい、皆心配したんだぞ。》
《了解。》
ストライクからの通信が途切れる。
《…あの二人…そうか…。まるで夢のようだったが…生きてたんだな…。》
フューエルはそう呟いた後、ヴァルキリーを使い天界に戻って行った。
四十一話です。人間の頃…過去にエデンが言ってましたね。




