第四十話 歪曲
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。
「続いてのニュースです。先日、赤い雷雲と共に私達を襲った堕天使を天使達が撃破し、無事沈静化に成功しました。しかし、これによる街への未曾有の被害は現在に至るまで復旧し切ってはおらず、民間人からの非難の声も上がり始めています。また、天使の対応が間に合わないなら自分達でやるとの意思を発表する団体まで出てきており…。」
「最近じゃこのニュースで持ちきりだよな、嫌んなっちまうよ。なぁー聞いてんのか翔ー?」
ある会社の食堂。ガヤガヤと騒がしい中でそんな会話が至る所でされている。
「…俺からすれば守って貰って感謝だけどよー、確かにもうちょっと被害は抑えられないもんかね〜。」
「なぁ、お前はこの団体、どう思ってるんだ?」
「んー?あぁ、自分達の手で堕天使と戦うって奴らな。勇敢だとは思うけど、ゲームじゃねえんだしやめとけばいいのにとは思う。」
「…勇敢と無謀は大きく違う。履き違えるなよ。」
翔と呼ばれた青年は食べ終えた食器を持って片付け、食堂を出て行った。
《フューエル、例の件なんだが。》
クレスからフューエルに連絡が入る。通信の裏で様々な音が鳴り響いている。
《発掘されたリーゼの復旧作業を進めてく内に分かった事がいくつかある。まずこの機体は有人タイプで戦闘特化型だ。ほんで直接ハッキングはされていなかったが、EMPを喰らってダウンしたらしい。そのせいで一部の情報がまるで読み取れない。んで最後。相当な電力と時間を食うが何とか動かせそうだぞ。》
《了解。一台でもいい、量産はできそうか?》
《残念ながら現状ではできそうにない。構造やら材料が未知数だ。なんせ俺達天使のロストテクノロジーみたいなもんだからな。》
《分かった。引き続き頼む。》
《了解。あぁ、それで前言ってた…》
クレスが何かを言おうとした直後、フューエルの方にけたたましい警報音が鳴る。フューエルの持つ別の端末から自動音声が作動する。
[上級堕天使の出現を感知。場所は茨城県。詳細は送信されたデータを確認せよ。繰り返す。]
《…あー、聞こえただろうが、そういう事だ。また後で頼む。》
《へいへい。行ってらっさい。》
クレスとの通信を切り、ヴァルキリーを起動する。マップを開き、取り込んだデータを表示する。マップデータをバイザーに移し、天界から地上へ飛び降り報告のあった場所へ飛んで行く。
《この辺りだな。確かこの辺は…何かあった気がしたんだが…。》
[敵を感知。]
ヴァルキリーの音声が流れる。すぐに戦闘態勢に移りヘッドギアのソナーパルスグレネードを空に打ち込む。
《随分ビビリな堕天使だな…。本当に上級か?》
ソナーパルスに引っかかった堕天使に向かってミサイルを放つ。それを喰らって堕天使は大ダメージを負うも、すぐに飛びかかり攻撃してくる。しかしフューエルの動体視力と戦闘技術に手も足も出ず、難なく追い詰めていく。
《ヴァルキリー、奴を記録。》
[データ記録を開始。堕天使コード:ディストーション。歪みの堕天使です。階級:上]
《見たところ能力頼りだな。造作もない。》
地面に叩きつけられた堕天使に向かってミサイルを再び放つ。そのミサイルが着弾する直前、堕天使の体がバラバラになり渦を作り出す。ミサイルは爆発する事なくその渦に飲み込まれていった。フューエルはかなり離れた距離にいたのにも関わらずその渦に引き寄せられる。ヴァルキリーのジェットパックでさえ逃げ切れない程の強さで。
《これがこいつの能力の本質か…ッ!!》
そのまま成す術なく渦の中心にある穴に吸い込まれる。フューエルは吸い込まれる直前、誰かが誰かの名前を呼んだような気がした。
四十話です。歪み。




