第三十九話 希望
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。動きの読めない堕天使。勝敗の軍配はいかに。
サタンを撃破した直後、スチームはフューエルの目の前で死亡しその魂がユグドラシルへと送られた。これにより、身体全ての記憶がリセットされ生まれ変わってくる事となる。それは直ぐにではなく、個体差が激しい為いつになるかは誰にも分からない。天界警備団本部の広間のソファに、フューエルとストライクが座っていた。
《…お前はやれる事を全部やったよ。それに…あいつだってこうなる事は分かってただろうし…。》
《……》
ストライクは普段の様子と違い明らかに落ち込んでいるフューエルを慰めている。
《それに、人間達もそうだが天界にとっても危機になりかねない奴をお前の力で倒したんだ。それの犠牲が一人なら、紛れもない俺達の勝ちだろ?》
《スチームはまだ成長出来た!!》
フューエルが俯いたまま声を荒げる。ストライクは手の行き場を失う。
《あんなに…気弱だったあいつが…先陣を切れる程に強くなって…隊のリーダーでもやっていける程だったのに…。…私達は…一人だって犠牲を出しちゃいけなかったのに…。私が‥守れてれば…。》
《フューエル…。》
普段話し始めると止まらなくなるストライクが、今だけは黙り込む。
《…取り込み中悪い、今いいか》
見知らぬ人影が腕を組みながら壁に寄りかかっている。
《お前は…》
《…?あぁ、そういや初対面か。俺はお前らの事は知ってるけどな。》
フューエルは返事どころか俯いたまま見向きもしていない。ストライクがフューエルの肩を支えながら続ける。
《俺はクレス。アルファベットではCRESだ。》
《クレス…聞き覚えはあるな…。確かラボの地上班だったか?》
落ち着いてきたのかフューエルが顔を上げる。
《おぉ、覚えててくれてるなんてこーえーだね。だが俺の本題は自己紹介じゃない。》
《なら何の用なんだ?》
《起動可能なリーゼを見つけた。》
《な…あれはもう今配備してる機体で最後だったんじゃ…》
《そうだったんだがな、例のサタンの雷で地形が抉れててな。そこから発掘できた。》
《そうか…新しくリーゼが…。内部情報は取れたのか?》
フューエルがクレスに問いかける。
《いや、それはまだ分からない。何せ数百年経った機体だからな。いくら天界製でも修復にはかなり時間がかかる。》
《そうか…。その機体がもしハックされてなければ希望は大きいぞ…。警備への人員を別にさけるだけでなく戦力にもなる。》
涙の影響でまだ目元が赤いフューエルが立ち上がる。
《何としてでも復旧、可能なら量産してくれ。頼んだぞ。》
《可能な限り手は尽くすが絶対とは言えない。そこは理解しておいてくれよ。》
クレスはそう言って立ち去って行った。ストライクは不安気な表情でフューエルに声をかけようとするも、それよりも早くフューエルが喋り出す。
《いつまでも引き摺っていられない。…ただの一秒も無駄に出来ないんだ。》
決意を固めた表情のフューエルがそのまま大広間を去って行くのを、ストライクはただ眺めていた。
天界警備団本部の奥の更に奥。エデンのみ入る事を許された絶対領域。そこにはこの世の生命を司る木、ユグドラシルがある。エデンはそこの管理人であるユートピアに呼ばれ、その地を訪れていた。
《用って何かな、ユートピアちゃん。》
《この前亡くなったあの子。魂の転換なんだけどね。》
《予定通りなら人間として生まれ変わる可能性が高いって言ってたと思うけど。》
《事情が変わったの。ユグドラシルが魂の完全なリセットに失敗してまた天使として生まれるみたい。名前は…スモーク。》
《スモーク…。名前からして、スチームと似た能力になりそうだね。》
《細かくはまだ分からないけど、そうなりそう。》
《…それで、用はそれだけかな。》
エデンは変わらぬ笑顔だが、どこか圧をかけるような雰囲気を放っている。
《…ユグドラシルのエラーはこれまで何度もあったけど、今回のエラーはちょっと危ないかもしれない。》
《危ない?》
《…近い内に…いや、いつになるかは分からないけど…混沌が生まれる。》
《…へぇ、それは敵として?》
《分からない。天使で味方側なら万々歳だけど、クラッシュの時みたいにはいかないだろうね…。》
《…分かった、味方側であることを祈ってるよ。また連絡待ってる。》
エデンは振り向き、本部へと戻って行った。
三十九話です。ごたごたになってきましたね。(サブタイトル入れ忘れに付き編集しました)




