第三十六話 子孫
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。
レヴィアタンの死体が消え、その原因をルシファーの仕業と推測した天使達。あの戦闘があってからほぼ常に警戒の手を緩めずパトロールや見張りに徹している為、人間界にも天界にも緊張が走っている。フューエルは警備団の自室でこれまでのルシファーの動きを纏めていた。
《なー、いつまでその紙束と睨めっこしてんだよー。》
同室のストライクが暇そうにベッドから話しかける。フューエルは余程集中しているのか反応しない。
《なーー、ちょっとは地上行って気分転換しようぜーー。つっても最近雨続きで外も出られねぇけどよー。》
フューエルが大きなため息をつく。
《お前は何か変だと思わないのか?》
《何が?》
《レヴィアタンを倒し、その死体が消えてから約三ヶ月。強弱はあれどほとんど毎日が雨な上、堕天使が全国で一切出なくなった。》
《雨はともかく、堕天使が出ないのはいい事だろ〜。天界はずっと晴れだから雨も関係ないし〜。》
《我々の住むところには確かに関係は薄いが、地上では被害が出始めてる。このまま雨が続くのは良くない。それに…もしただの雨じゃなかったら…。》
フューエルが書類を整え、フーッと息を吐く。
《…いや、確かに見回りも兼ねて一度地上に降りるのもありだろう。ストライク、行くぞ。》
《へーい。》
ストライクがばっと飛び起き、フューエルについていく。
地上。東京タワー付近に降り立つ。
《うへー…相変わらずの雨だこと。》
ストライクが傘をさす。フューエルは傘もささずツカツカ歩いて行く。
《この近くに飲屋街があるはずだ。たまには奢ってやるよ。》
フューエルが横目でしか見えない程度の角度で振り向きストライクにそう言った。途端にストライクは嬉しそうにフューエルに駆け寄っていく。
《寄るなただでさえジメジメしてんだから。》
《たまにゃいいでしょ〜へへへへ》
《やっぱお前が払え》
《何で!?》
二人はそんな会話をしながら飲屋街に入って行った。
《何にしよっかな〜》
《潰れるなよ、運ばないからな。》
《分かってるって〜。》
ストライクがメニューに目を通してる際、フューエルの後ろにある扉が開く。
「店長、いる?」
その異質な気配にフューエルとストライクはすぐに気付き、目線だけでその声の主を追う。声の主はフューエル達から少し離れたカウンター席に座り、店長と親しげに話している。
《フューエル。》
《分かってる。》
二人が小声で話した直後、ヴァルキリーの一部を起動させその少年を記録する。
店長はその少年の事を「ロフィ君」と呼んだ。
「いつも悪いね。」
「いやいや、うちもロフィ君のおかげで仕入れができてるからね。当然だよ。」
ロフィと呼ばれる少年が出ていくと同時に出られるようにフューエルが会計を済ませ、ストライクを天界に戻らせる。
フューエルは店を出た直後にコアをステルスコアに切り替え、透明化して後を付ける。ロフィはしばらく歩いた後、人気の少ない通りに入っていく。
「…で、さっきから僕をつけてるのは誰かな。」
振り返ることもしないままそう問いかけてくる。ロフィの目は先ほどとは違い、目が変異し黒く染まっている。赤く光る部分は車の進行を止める看板と似た形をしていた。そしてその腕は肘から先が黒くなり、細く、鋭く変化した。
《…何故分かった。》
「失敬、生まれつき五感が鋭いもんで。」
フューエルが即座に戦闘態勢をとる。
「まぁ待ってよ。僕は最初っから君達と争う気なんてないよ。」
《なら何故その爪を出した。》
「ただの人間に擬態するのは疲れるんだよ。これが一番楽なの。望んだ力じゃないっての…。」
依然警戒態勢を崩さないフューエル。見かねた少年は木箱に上に座り、再び口を開く。
「まずは自己紹介しようか。僕はカタストロフィ。タスでもロスでもロフィでも、好きに呼んでよ。」
どこか気怠げな雰囲気の中、彼は警戒する事もせずそう語る。
《…私は》
「あぁ君は言わなくていいよ。僕は知ってるからね。フューエル•レインフォースでしょ?」
《…お前はどっち側だ》
「…と言うと?」
《堕天使側なのか、それとも我々の味方なのかだ》
「どっちでも無い。あくまで僕は中立だよ。誰とも戦う気なんてない。めんどいし。強いて言うなら…僕にメリットが大きい方につくよ、多分。」
《(敵対意識は本当に無さそうだな…。となれば…)》
《七つの大罪について知ってることはあるか?》
「なんでそんなこと聞くの…。」
《私が一旦でもお前の言う事を信用する条件だ。知ってる事を話すなら敵対意識は無いと今は信じよう。》
「疑り深いのは本当なんだねぇ…。そうだな、あいつらの動きを把握してるわけじゃないからあーだこーだ言えないけど、唯一今知ってるのはこのずっと続いてる雨はあいつらの一人が原因って事かな。」
《なんだと?》
「前、雷雨になった時があったでしょ、あの雷の中に一本だけ赤い雷が混ざってた。誰が出るかは分かんないけど、あの気配は間違いないだろうね。…僕が今知ってるのは以上。これ以上は何も言えないよ。」
《…いや、十分だ。》
フューエルは剣をしまい、ヴァルキリーを閉じる。
《有益な情報、感謝する。宣告通り今は信用しよう。》
「はいはい分かったって…。今はそんだけなら、さっさと帰ったほうがいいんじゃないの?」
《…あぁ。じゃあ、また会う日があれば。その時に敵でない事を祈るよ。》
「はーい。じゃあね。」
カタストロフィは木箱に寝転がり背を向ける。フューエルはそのまま飛び立ち天界に戻って行った。
三十六話〜
新キャラまた増えた




