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第三十五話 行方

自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。

近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。

《……死体がない…。》

ガジェットが雨の降る中呟く。クラッシュとフューエルが戦闘を繰り広げやっとの思いで撃破に成功したレヴィアタン。その巨体故に必要なエネルギーを使い切ってしまっていた故に二人の力では運ぶことが出来ず、天界の研究班へと引き渡す為一度飛んで戻っていたものの20分程の事だった。堕天使が死んだ際特有の融解現象による液体が少しも残っていなかったため、誰かが二人がいなくなった間に運び出したとは考え難い。

《フューエル、聞こえる?…うん、そう。レヴィアタンの死体が消えてる。あの巨体だし、この時間で溶けきったとも思えない。運んだ形跡も無いよ。…了解。》

ガジェットが装着していたパワードスーツの電源を切り、カメラで周囲を撮影し天界へと戻っていく。


《これで今回の報告は以上です。》

《クラッシュ君と連携をとってたった二人で倒したんだね。それは凄い事だし、褒めてあげたいんだけど通信機器にまで影響が出てたのはいただけないかな。》

《申し訳ありません。しかし…出力を手加減して勝てる相手では無かったので…。》

《うん。分かってる。私からはもう何も言わないけど、なるべく気をつけね。…それよりも、死体が消えたのが一番不思議なところだね。》

《はい、普通なら未解決でしょう。》

《その口ぶりからして心当たりが……まさか》

《えぇ、以前から何度も姿を現しているルシファーです。奴は過去にベルフェゴールを取り込んでいます。奴なら何処にも運ばず、かつ数秒で死体を消し去る事が可能です。》

《…紅煩ちゃんからの報告では七体仲間がいるんだったよね。今は何体なのかな。》

《ルシファーを含め、確証があるのがベルフェゴール、レヴィアタンで三体ですが、奴の性格を考えると我々の動いてる裏で既にもう二体余りは取り込んでいると考えていいかもしれません。》

《そうなると、最悪の場合は七分の五は取り込んでるわけだね。…もう猶予は無さそう。》

《えぇ、早急に対策を組んでおかないと、我々の全滅も視野に入れないといけなくなってきます。》

《…分かった。私の方でも考えておくよ。フューエルちゃんも皆も最大限警戒をお願いね。》

《承知しました。失礼します。》

《……硬い口調は相変わらずだなぁ。》

ひらひらと手を振ってフューエルを見送るエデンは少し寂し気にそう呟いた。


《あれ、隊長何してるんですか?》

《…あぁ、スチームか。いや、別に嫌な事があったわけではないんだが…》

《お疲れですか?》

《まぁ、そんなところだ…。ここ最近連戦だったからな。》

《確かに異様に強い堕天使が多かったですからね…。》

《幸いなのはまだこいつが静かにしてる事だな。》

本部の広間のソファにもたれかかるフューエルが気怠そうに異質な模様の入ったコアを取り出す。

《それって…前のイフリートの…》

《あぁ、どういうわけか最近異様に沈静化してる。私からしたらこのまま静かにしてもらいたいけどな。》

突如、フューエルの手の中のコアが熱を放つ。

《あっつ!?》

“随分な言いようじゃないか、フューエル。”

コアを中心とする様に炎を纏い、ふわふわとフューエルの目線あたりを浮いている。以前よりもサイズはかなり抑えられている。

《何の用だ!》

フューエルはヴァルキリーを展開し、スチームを自身の背後になる様にし武器を構える。

“まぁそう血気盛んに叫ぶな。今回我は争う気はない。元より、貴様の体を軸にする他ここに顕現する術がなかったのだ。このサイズが奇しくも今の我の限界だ。”

《何故今出てきたんだ!》

“はぁ……貴様はせっかちだな。我は所謂交渉を持ちかけにきたのだ。”

《交渉…?》

“そうだ。我とて不本意にこの世界に紛れ込んだ。故に我のいた世界に戻るきっかけを得るには貴様ら天使が必要だろう。そこで提案だ。”

上半身のみのイフリートが長く鋭い爪で指をさす。

“我の力を貸してやろう。その代わり、七つの大罪共の死体を寄越せ。それだけでいい。”

《随分私達に友好的じゃないか。》

“我は一度も貴様らの敵と申告した覚えない。承諾したという認識で良いな?”

《お前が私達の大敵となる可能性を捨てきれない。》

“…まぁ、貴様が疑り深い上に幾度か体を借りているからな。そうなるのも理解はできる。であるなら我はこの命に誓おう。もしも我が貴様らを裏切り敵となる事があれば、我はこの命を尽きさせる。”

《口では何とでも》

“我は貴様らとは違う種族。我特有の力でな、誓約と言えば分かりやすいだろう。この契約を今この瞬間に裏切れば我は死ぬわけだ。”

《………分かった。それも嘘の可能性だってあるが…。》

“ダル…。ならば我の持つ情報を一つやろう。”

《情報?》

“貴様の言っていた最悪の場合とやらだが、あれは真実だぞ。”

《何!?》

“我は元の世界でも奴らに会っていた。それ故にある程度感知はできる。常にどこかにあった七つの気配が今はたった三つ。気配の強さで言うなれば恐らくルシファー、サタン、ベルゼブブだろうな。”

《……分かった、取り敢えずは信じよう…。》

“理解力も高くてありがたい。まぁ、我も貴様らも、お互い損のない様にしようじゃないか。”

イフリートはそう言い残し炎が消え、コアが床に落下する。フューエルの後ろに隠れていたスチームが恐る恐る出てきて心配そうにフューエルを確認する。

《奴の結んだ契約…。無理にでも私の体を奪わずに持ちかけてきた上にあんな情報まで渡してきた…。信じたくはないが恐らく本当だったんだろうな…。》

《しかし…内容は七つの大罪の死体を渡す代わりに力を貸すって…。》

《あぁ、私達はまだ堕天使についてほとんど何も知らない上に、七つの大罪の死体などという大きすぎる研究材料を渡せだと…。》

《ですが…彼はかなり強力です。それに大きな研究材料と言えど彼らより強い堕天使だって…》

《だが他の堕天使を吸収しこちらの言語まで話す堕天使などいつ現れるかも分からないだろう!!》

怒鳴った直後、フューエルはハッとした表情になりスチームに駆け寄る。

《すまない、いきなり怒鳴ってしまった…。》

《い、いえ…大丈夫です…。取り敢えず、上に報告しないとですよね…。》

《そうだな。私から報告に行くから、スチームは戻ってて大丈夫だ。》

《承知しました!》

スチームはライフルを抱えながら走って行った。フューエルはそれを見送った後、エデンのいる執務室へ向かった。



《あ、やっと繋がった。》

《何か用か、ガジェット。》

《例の場所の周辺、検査終わったよ。案の定、というか…疑惑が確証になったかな。》

《レヴィアタンが消えた場所のすぐ近くに別の堕天使の痕跡があった。報告通りなら…》

《奴だろうな。クソ…急に動きが早まり始めたな…。何か焦ってるのか…?》

《それは分からないよ。けど、君はこういう時逆に焦って見落としがちになることがある。気を付けなよ、それじゃ。》

そう言ってガジェットからの通信が切れる。フューエルは今の報告の内容も含めた報告をする為、エデンの部屋へと進む足を速めた。

第三十五話〜

おやおやレヴィアタンが行方不明と……。

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