第三十話 再燃
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。
囚人から契約に関しての情報を聞き出したフューエルは書類を纏めたファイルを持って訓練場に向かっていた。
《あ、隊長!久々ですね!》
《…ん?あぁ、スチームか、そうだな。最近皆の事見れてなくてすまないな。》
《いえ、大丈夫です!隊長がいない間結構大変だったんですよ!》
そう話すスチームは話してる間も大量の何かを抱えて忙しなく動いている。
《スチーム、それは…?》
《これですか?これはダミーの素材です、的が全部壊れちゃったので…。あ、では急ぐので僕はこれで!》
そう言って訓練場の入り口へとスチームが走っていった。
《(前と比べて明るくなったなぁ…)》
なんて事を考えながらファイルを開き、そこそこな時間が経った後にヴァルキリーから端末を取り出し通話をかける。
《何か新しい情報は入ったか?》
「んー、まだ契約内容とかは入っとらんなぁ。ただ目撃証言はいくつか取れたで。」
《…毎度不思議なんだがお前はどうやってそんな情報とか物とか仕入れてるんだ?》
「それは企業秘密さかい、詳しくは言えへんな。ちょっとヒントあげるならせやなぁ…壁に耳あり障子に目あり、やな」
《またお前ははぐらかす…。まぁいい、私はしばらくしたらまた契約者探しに出る。華恋にも聞きたいことがあるしな。》
「せやったら誰かしら連れてった方がええで。前みたいにエンジェルキラー?とかいうえらい強い武器持ってたりした時の為に。」
《…(なんで知ってるんだこいつは…。)まぁ分かった。お前は引き続き調査頼んだぞ。》
「紅ちゃんに任しとき〜。ぬりかべー、出番やで〜」
ぬりかべ辺りから声が遠くなっていき通話が切れる。
《…ぬりかべ…確か色んな壁に化けたり出来るんだっけか。以前ちらっと見せてもらったな。》
《隊長、どこかにお出かけですか?》
訓練場の見張り台のような場所にいるフューエルに休憩時間に入ったスチームが寄ってくる。
《ん?あぁ、例の契約者探しだ。本体が見つからなくても手掛かりの一つでも見つかればいいと思ってな。》
《なかなか掴めてない感じですかね?》
《あぁ。…そうだ、スチームも一緒に来てくれないか?》
《え?》
《先程調査を頼んでる協力者から言われたんだ、行くなら複数で行った方が良いって。無理にとは言わないが。》
《いえ!今日の訓練は後一時間で終わりますから大丈夫ですよ。》
《そうか、ありがとう。》
夕暮れ時の関東圏上空。フューエルはスチームと共にそこで滞空しながらヴァルキリーのホログラムで地図を開いている。
《まずここのエリアに向かう、調査はその後だ。》
《了解です、僕はその間周りを張っておくで大丈夫ですか?》
《あぁ、構わないがスチーム。前にも言ったがこう言った時は聞かずに《張っておきます》で大丈夫だ。自分の判断に自信を持ちな。》
《りょ、了解です!》
会話を終えた後、地図を仕舞い二人で飛んで行く。
《華恋はいるか?》
フューエルは入り口付近に立っていた二人の黒服に話しかける。
「現在外出中です。」
《そうか、後どのくらいだ?》
「もうそろそろかと。」
「お、待ってたよエルエル〜。」
紙袋いっぱいの果物を抱えてひらひらと華恋が手を振って別の黒服と共に帰ってきている。
《丁度よかった、私の用は荷物を置いてからで構わないんだが…》
「おっけーおっけー、折角だしエルエルもあがって〜。」
《(今日はなんか緩いな…)》
華恋を追うようにフューエルがアジトに入って行く。スチームはその間アジトの屋根で周りを警戒していた。
「えーと、契約者の件でしょ確か。」
華恋がソファに座り林檎を齧る。
「調査班…と言っても二人が限界なんだけど、頑張って集めてもらってるよ。」
《そうか……。何か進展はあったか?》
「契約内容に武器を与える以外に能力を与えるものがあるみたい。私達は戦うのは避けたけどね。」
《能力付与…武器より厄介かもな。堕天使が与えた能力なら天使にも対抗出来る力になり得る。》
「そうだねぇ、私達も警戒しとかないといけないからねぇ。人員不足だよ。」
《…だからギャングと名乗るのをやめるならいくらでも支援すると何度も》
「それは嫌ー。元の世界に戻れた時に寂しくなっちゃうでしょ。」
《はぁ…。まぁ華恋が良いなら良いけど。》
「あぁ、それと」
《まだなにかあるのか?》
「最近夜な夜な真っ黒な人とそれを呼び出したかのような少年が目撃されてるらしいよ、何してくるか分からないから気をつけてね。」
《…そうか、協力感謝する。じゃあ、今日はここまでだな。》
「あーい、気をつけてね〜。」
華恋はフューエルを見送る。そしてフューエルが出口に近付いた時に発砲音が鳴り響く。
その音を聞いたフューエルは急いで走り外に飛び出す。すぐさまヴァルキリーを戦闘態勢に切り替えて屋根上にいるはずのスチームの元へ飛ぶ。
《スチーム!何事だ!あの木は!?》
《まだ分かりません!木があの人達を襲ってたので撃ったんですがとても止められなくて!!》
《ヴァルキリー!ミサイルコア装填!二十四連式徹甲ミサイル!発射!!》
ミサイルコアに切り替え数が倍になったミサイルが入り口付近にいた黒服二人を締め付けていた木を粉砕し救助する。
次の瞬間にミサイルコアが直ぐにフレイムコアに切り替わりフューエルの持つ双剣が燃え上がる。
《スチーム!この二人とアジトを守れ!私が対処する!》
フューエルが燃やしたり切り裂いたりを高速で繰り返しているのにも関わらず木は無限に湧き出て襲い続ける。
《(少し不安材料はあるが…やるしかないか…!)》
フューエルがフレイムコアの出力を少しずつ上げていく。
「おい、あいつ確か…」
「あぁ、天使のお偉いさんだなぁ。」
「あの方が言ってたのはあいつだよな。」
建物の影で話し合う人影。その片方が義手を外し大きな刃が出現する。
「合わせろよ」
「うっかり燃やされるなよ。」
その会話を終えた途端、刃持ちの者が飛び出し木に乗ってフューエルに突撃する。
『ガキィン』という音と共にフューエルの刃と契約者の刃がぶつかり合う。
《いよいよ出てきたな…!愚者め》
「愚かもんはどっちかなぁ!!」
木と契約者の刃が連携を決めフューエルに襲いかかる。フューエルは応戦するように炎の出力を上げていき、どんどん上がる炎が大きくなっていく。
その途端、炎が異常な上がり方を始める。
「うおぉ!?」
木は全てあっという間に燃え尽き、刃持ちの契約者は刃を盾にするも火傷を追いつつ範囲外まで退避していく。
〝これがなければ姿をも出せぬのは不便だな……。″
《こ、こいつは…!前の…!》
スチームは煙を出し続けて華恋達の姿を隠しているが、その姿を見て咄嗟に煙を消してしまう。
〝貴様…この体の者の部下か…。…ふむ、若い芽は摘んでおくか。″
完全顕現したイフリートがスチームを襲おうとするが、急に方向転換し契約者に向かう。
刃の契約者は完全に怯えきり、尻餅をついて後ずさっている。
〝先に小賢しい此奴らだな。″
イフリートが契約者に手を伸ばした瞬間、イフリートの足元に一瞬で黒と紫の魔法陣が現れ、四つの柱が出現する。イフリートが反応する前に紫色に光る鎖がイフリートを捕える。イフリートが鎖を破ろうとするも、頑丈な鎖は壊れない。
刹那、幾つもの人魂が魔法陣に集まって行きイフリートを黒いスフィアが包み込んでいく。
〝ぐ…不安定なこの体じゃこんなものも破れぬか…″
数秒経った後、鎖や柱と共にスフィアが弾ける。そこにはもうイフリートの姿は無く、フューエルだけが残っていた。
〈全ク…未だ制御が効かなイなんて…。火傷等負ってナいのを見ルにちょッとはマシになたみたいデすが…ワタシの知る貴方はこんなのニやられまセんよ。〉
反動で起き上がるに起き上がれないフューエルの視線の先に、かつてフューエルと争い、圧倒した紫髪の少女、デスマーチが立っていた。
三十話〜
堕天使の被害を抑えることには成功するも、多大なる被害が毎回出ており天使への不安が募る…か




