第二十八話 紛失
自創作【エンジェルアトリエR】のストーリー小説です。
近未来の日本にて人々を守る天使。滅ぼそうとする堕天使。勝敗の軍配はいかに。
《来たね。新しい髪型のフューエルちゃんもとってもかっこかわいいけど、今はそれを言ってる場合じゃ無くなっちゃったよ。》
《…随分重々しいですね。ストライクから何かあったということは聞いています。しかし詳しくは知りません。何があったんですか?》
《じゃあ単刀直入に言うね。…過去の大戦争時に当時の大天使が勢力をかけて封印した禁忌の堕天使。それと一緒に封印されていた武器、エンジェルキラーが何者かによって持ち出されてた。》
《……は?》
エデンの発言を飲み込めないフューエルが一言しか言えぬ中、カムイが珍しく口を開く。
《…あの武器は過去、数多の天使を葬ってきた。その武器特有の効果は天使以外を攻撃出来ない代わりに天使を消失させるものだ。簡単に言えば、武器にとっての堕天使が我々で、その武器が天使のようなものだ。》
《んなこと分かってますよ、何回も資料を読んだんだから。それが消えた…?堕天使の方は?》
《堕天使の方は封印されたままだったよ。念の為封力も確認したけど問題は無かった。けど、それが問題でもあるんだ。封力がそのままなのに誰が、どういう目的で、どうやって持ち出したのかが一切わからないんだよね。近くに堕天使の痕跡はあったんだけど、この封印してる場所の結界に触れるだけで堕天使は致命傷のはず。》
《…なるほど…。……それ、犯人は人間って可能性はありませんか?》
《へえ、どうしてそう思ったの?》
《ここに来る前、紅煩から「人語を話す堕天使が人間に契約を持ちかけ、力を与えている」という話を聞きました。その契約によって適正を持った武器を出せた人間がいるなら、堕天使が案内すれば持ち出すことは可能です。その人間が脅されてるならそこまで心配は要りませんが、もし悪意を持った者なら…》
《最悪天使が死にかねないね。しかもエンジェルキラーは天使を殺した後輪廻転生させるものではないからね。切られれば最初から存在しなかったことになってしまう。…団員総動員かな。》
エデンがそう言って目配せした時、各隊長がすぐに立ち上がり解散する。
《私は何人か亜人の顔見知りがいる、そいつらにまず聞いてみるからストライクは部隊全体を動かして広範囲に警戒網を張ってくれ、頼んだぞ》
《任せな!ヘルファイア、スティッキー、出番だぞ!》
ストライクが通信をとりながらフューエルと反対方向に走っていく。
《(まずは華恋のとこだな…彼女の拠点はどこだったか…)》
フューエルやストライク、クライシス達は人間界に降り、サテライトの部隊は天界から超倍率スコープで各方面への射撃に備え始めた。
《…そういうわけだ、何か聞いたことはあるか?》
「あぁ、私持ちかけられたよそいつに」
《本当か!契約したのか?》
「いや、怖かったから黙ってたらじゃあいいですみたいなこと言っていなくなったよ」
《そうか…危害を加えられてないなら良かった。どんな見た目だったか覚えてるか?》
「えーと…確か白い服に片腕が二本の剣で…角が四本だったかな…。あんまり覚えてないけど…」
《いや、それだけ分かれば十分だ。協力感謝する。ここら付近の人にも聞き込みしてるから、何かあればすぐに連絡してくれ。》
「はいよ〜、私達も出来るだけ力になるから頼ってね」
《心強いよ》
一通りの会話を終えてフューエルは華恋のアジトを出ていった。
その後、アジト付近でフューエルは聞き込みをしていた。
「持ちかけられてる人を見た」や「怪しい人影を見た」等様々な情報を得られたが、その中で一人さっき会ったと話す人物に会い、案内してもらう事にした。
その場所は、まだ昼間だというのに薄暗い場所だった。
《(確かに堕天使の痕跡があるな…それも今までの調査で最も強く残ってる…。ここを根城にしてるのか…?)》
フューエルがその場所の調査をしている時、案内した人物がフューエルの背後に立ち、片手を武器に変異させ振り下ろす。しかし、その武器は軽々しく避けられフューエルに思い切り蹴り飛ばされた。
《最初からお前は怪しいと思ってたさ。やたら腕を隠したがってたし、言動も怪しさ満点だ。隠す気あるのかってレベルにな。》
フューエルはそのままダガーを取り出し、ヴァルキリーを室内戦闘用にコンパクトに折り畳む。
《(人間なら立ち上がれないくらいの負傷を負うダメージのはずだが…身体強化も契約の内容に入ってんのかね。こっちとしては簡単にボロ出してくれて助かるが)》
そんな事を考えながら対人戦闘のウォーミングアップをとる。その途中で隠れていたもう一人が突然襲いかかる。
《(ソナーに引っかからなかっただと!?)》
飛び出した際の物音で反応できたおかげでフューエルはダガーで攻撃を受ける。
《(あっちとは違ってこいつは…武器を与えられたタイプか。武器はあってもされど人間、押し切られは…)》
思考を巡らせていると、がくんとフューエルが片膝をつく程押される。
《…なるほど、エンジェルキラー持ちはお前だったわけね…》
「ヒヒ…最初はあいつにビビっちまって契約しちまったがよ!お前ら一人殺す度百万くれるんだとよ!こんなうまい話滅多にねえよなぁ!」
フューエルを襲った者は狂気的な目でそう捲し立ててくる。しかし、無理矢理施された身体強化に体に見合わない強力な武器を使っているせいで体の方が耐えられず武器を持つ腕がどんどん爛れ、出血していっている。
《(ハイになってんな…それに…どんどん力を吸われてる…このままじゃまずいな…)》
殺すのは容易だが、人間を殺してはならないという天使にとっての絶対規則がある以上フューエルが無闇にヴァルキリーを駆使し攻撃するわけにもいかない。
《ヴァルキリー!バインドコアであっちを拘束、もう一人いる!そっちにも警戒を》
「お前の相手してんのは俺だろうが!」
フューエルが抑えてたダガーを弾き、エンジェルキラーが再び振り下ろされる。
フューエルは思わず目を閉じ防御姿勢をとるも、想定と違い何の衝撃も来なかった。
「……は?」
ゆっくり目を開けると、さっきまで確かに武器があった人間の腕が無くなっていた。
先程検知した気配が移動しているのを感知し暗闇の方にそのまま目をやると、何者かがエンジェルキラーを持った腕に食らいついていた。
《グルルルル……》
乱雑にその腕を放り、再び契約者に襲いかかり小柄な体格の割にあっという間に押さえつけた。
《よくやった、レヴェナント。》
《ア゛ウ゛ッ!》
建物の影からまた新たな和装の黒服が現れる。レヴェナントはその人物を見るや否や嬉しそうに駆け寄る。
《お前らは…》
《先にそいつだろう?フューエル殿》
レヴェナントによりボコボコにされもう動く余力も無くなっていそうな契約者だったが、体を引き摺って逃げようとしている。フューエルはすぐにバインドコアを再度起動し二人の契約者を纏めて拘束し警備団の輸送隊に連絡した。
《…で、協力には感謝するが何者だお前らは》
《言葉が強いな。まぁ警戒するのも分かるが。》
黒服がレヴェナントに口枷を付けながら話し始める。
《俺は影縫。影に縫うと書いて影縫。まぁ、この子の管理者…保護者の方が近いな。そんでこの子がレヴェナント。分かりやすく言えばゾンビの天使。遥か昔は元々隊員だったんだが…まぁ紆余曲折あって今は一般団員だ。》
《レヴェナント…確か歴代の隊員リストでちらっと見た事があるが…会ったことは?》
《俺もこの子も無いな。君とは初対面だ。》
レヴェナントは口枷を少し嫌がるような仕草を見せるも、影縫には懐いているようですぐに大人しくなった。
《俺達はあまり表に出るようなタイプじゃないから裏方が多い。故に会う事も少ないと思うが…まぁよろしく頼む。》
そう言った後、二人は影に入って消えていった。
二十八話〜
諸事情で来週は更新ないです




