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あたしはエペンス通り249-7のシスの家に住み始めた。
あたしの部屋は2階の母さんが使っていた部屋をそのまま譲り受けて母さんの部屋を使っている。
あたしと一緒に来てくれていたケイトには休暇を兼ねてしばらくここに居ると伝えて仕事の方はしばらくみんなで回して欲しいと伝えるとゆっくり休んでって下さいと言って戻ってった。
やっぱりあたしが働きすぎだってみんな思ってたんだ。
「さて、何をしようか」
だけど、今までが忙し過ぎたせいか、ゆっくりと言われてもピンとこない。
横になってみてもすぐに飽きてしまってどうしようもない。
シスにお願いして絵を描くところを見せてもらおうか。
シスのアトリエは一階のリビングの奥にある。
正式にこの家に住むことになって知っておいた方がいいだろうと言われて案内された。
シスの絵は上手といったら上手なんだけど、色がごちゃごちゃとしていてあたしはあまり好きじゃなかった。
だから、シスが絵を描いているのはあんまり興味がないんだけど、暇だし。
「うーん。散歩に行こうかな」
今日着てる服はあの日シスに声を掛けて来たライアという恰幅のいいおばさんが本当に持ってきてくれた花柄のワンピース。
白地に大柄の黒の花は大人っぽくて可愛らしく気に入ってる。
ライアさんに改めてお礼を言いたいのでシスの絵を見るよりは楽しそう。
前に勝手に出掛けた時にかなり心配させてしまったので一応声を掛けておこう。
「シス!」
「あたしちょっと出掛けてくる」
「どこに? 着いて行こうか?」
作業中だったらしいシスに声を掛けると持っていた筆を置いて立ち上がろうとしてきたので、慌てて止める。
「大丈夫よ。すぐそこのライアさんにこの服のお礼したいだけだし」
「そう?」
「ええ、ついでに買ってくる物があれば買ってくるけど」
「えっと、そうだね。じゃあ、絵の具の発注だけ頼もうかな。受け取りは次行く時だからアリシアは気にしなくていいよ」
「分かった」
ここで暮らし始めてわりとすぐにシスから敬語なしと名前で呼ぶようにとお願いされた。
おじさん呼びは嫌だったみたい。
シスに渡された絵の具の注文書と母さんが生前使っていたらしいつばの広い白の帽子を被って行く。帽子には青いリボンが巻いてあってこれも可愛い。
クローゼットの中の服はシンプルな物からカジュアル、クラシック、ファンシー系以外の服なら数年前の物だがかなり充実している。
外に出るともうすぐ夏だからか遠くに大きな雲が浮かんでて日差しも段々ときつくなってきた。
もう少ししたら帽子じゃなくて日傘もいいかも。
「あら、シスんとこの、えっと……」
「アリシアです」
日傘は母さんのクローゼットの中にはなかったから今度送ってもらおうか、それともこっちで買おうかと悩んでいると、タイミングよくライアさんに声を掛けられた。
「アリシアちゃんね。アリシアちゃんはどこに行くの? お使い?」
「はい。それとライアさんにこの服のお礼言いたくて」
「気にしなくていいわよ。姪っ子にって作ったらいらないって断られちゃった奴なのよ」
「でも、あたしこの服とっても気に入ったんです! クラシカルで可愛いし、この帽子とも合ってて」
「そう? 他にもあるんだけど見てく?」
「いいんですか?!」
「ええ、もちろんよ」
ライアさんの家はシスの家よりはこじんまりとしているが、掃除はキチンとゆき届いているのでそこまで狭苦しいといった感じはなかった。
ライアさんはご主人と2人暮らしで娘さんはとっくにお嫁に行ってしまって世話を焼く人が減ってしまって最近ではエペンス通りの人たちにまで世話を焼いているんだとか。
ライアさんの服はどれも素敵で欲しい服ばかりで帰りは大荷物になるといけないから後で届けてくれると言ってくれた。
ライアさんにお礼を言いに来たはずなのにこんなによくしてもらってよかったのだろうか?
画材屋に行って家に戻ってからライアさんにまた服をもらったのでお礼をしたいとシスに伝えた。
「ライアはみんなの喜ぶ顔が見たいだけだろうけど、そんなに言うのならみんなにも協力してもらおうか」
「みんな?」
「うん。じゃあ、出掛けようか」
母さんの帽子を被り直させられてシスは出掛ける用意をしている。
「どこに行くの?」
「色々だよ。アリシアはまだエペンス通り全部行ったことないだろう?」
そう言われるとそうなので頷く。
あたしが行ったのは今日行ったライアさんの家と画材屋、それから近くのパン屋とシスにくっついて行った市場ぐらいだ。ここに来た時に通り過ぎたけど、母さんに会えるかもと緊張し過ぎてどこにどんなお店があるとか全然見てなかった。
「今日はエペンス通りの案内も兼ねてライアにお世話になった人たちに協力してもらおうかと思って」
「エペンス通りの人たちにも?」
「そうだよ」
「それは素敵ね!」