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 パジャマに着替えてから1階に降りる。


 パジャマにしようかそれとも普通の服にしようか散々迷ったけど、どうせ食べたら寝るだけだろうからとパジャマにした。


 一階に降りると先ほどまでしていたコーヒーの匂いとは違ったいい匂いがしていた。


 シスの作ってくれたパスタはベーコンとコーンだけのシンプルなパスタだったがおいしかった。


 食べながら母さんがどんな人だったか聞いているとあっという間に時間が経ってしまいいつの間にかぐっすり眠ってしまっていた。


 起きた時に母さんが使っていた部屋で寝かされていたからシスが運んでくれたなんだろう。お礼を言わなくちゃ。


 身支度を整えてから一階に降りるとまだシスは起きて来てないのか誰も居なかった。


 家の中を見て回りたいなぁ。あと、シスの描いた絵も。


 だけどシスを居ないのにそんな勝手なことをして怒られるのも嫌だったから外に出てみることにした。


 外は晴れで風も気持ちよく過ごしやすい1日になりそう。


 昨日は緊張していたのもあって景色を楽しむ余裕もなかったから色々見て回りたい。


 歩きながら昨日の夜シスから聞いた母さんの話を思い出す。


 母さんは生きてたら32だったそうで年の差夫婦だったそう。


 ということは母さんは21の時にあたしを産んだんだ。父さんと母さんが結婚したのはそれより前だから18そこそこで結婚。


 破天荒な人だったというのにどうしてそんな年で結婚したのだろう。


 あたしが母さんのこと何も知らないと言った時のシスの悲しそうな顔はしばらく忘れられそうにないや。


「今まで知らなかった分これから知ってけばいいし……まあ、母さん死んじゃってるけど」


 ははっと自虐的な笑いが出ちゃった。


 今まで考えようとはしなかったことが頭の中でいっぱいになりそうになったので慌てて頭を振ってやり過ごす。


「考えちゃダメよ」


 そうよ。あたしは父さんと母さんの1人娘!! それでいい。


「それにしても」


 まだ朝早いからか通りに誰も歩いてない。家を出る時に見た時計は5時20分を差していた。


 田舎だと思ってたけど通りっていうぐらいだからお店もそれなりにある。


 地続きとはいえ隣の国だからかまだ閉まっているお店の店先に置いてある商品も目新しく感じる。


「使用人たちにお土産でも買っておくべきかな」


 それから弁護士と父さんの親族の中で少なかったけど、本当に父さんの死を悼んでくれた人にも買って行こう。


 店が開くのは何時ぐらいからなんだろ。あ、でも、先に母さんのお墓参りからだった。そっちも何時から行くんだろ。多分朝食を食べてからよね。


 昨日食べた時間が遅かったからまだそんなにお腹が空いてないや。


「アリシア!」

「えっ」


 何事?!


 いきなり大声で自分の名前を呼ばれて驚いたってのもあるし、この国であたしの名前を知ってるのはたった2人なのに一体誰がってのもあるし、あんな大声であたしの名前を呼ぶ人なんて今まで居たことなんてあっただろうか? っていう驚きもあったと思う。


 びっくりして声のした方を振り返れば酷く慌てた様子のシスがこちらに向かって走って来てる。


「えっ」

「アリシア! よ、よかった怪我はない?! 急に居なくなるからびっくりしたよ……」


 膝に手を着いて肩で息をするシスにそんなに遠くまで歩いて来てしまっただろうかと不安になる。


「ごめんなさい。早く起きてしまったので、散歩にでも行こうかと思って……」


 書き置きぐらいしてから出ればよかったと反省する。


「そ、それならいいんだ。ベッドに運んだのが嫌だったんじゃないかとか、誘拐とか怪我してたんじゃないかって……僕が不安になっただけだからアリシアが謝る必要はないよ」

「あの、1つ聞いてもいいですか?」


 どうしてこの人はこんなに心配してくれてるんだろう。


「うん?」

「昨日会っただけのあたしのこと何でそんなに心配してくれるんですか?」

「当たり前じゃないか。君は姉さんが唯一遺した子供なんだ。それなのにどこに心配しない人間がいないんだい?」

「……」


 あたしの周りに居るのはハゲ鷹のように父さんの遺産を狙う人たちばかりだと思ってた。


 家で働いてくれてる人たちだってお金がなくなったら違うところで働くだろうからこちらもお金だけの関係だと思ってた。それにあたし友達居ないし。


 そんなことをぽつりぽつりと語っていると人が起きて来たのか騒がしくなってきた。


「おや? シスじゃないか。ん? そっちの子は?」

「ライア! 姉さんの子だよ。昨日こっち来てこれから一緒に暮らすんだ」

「えっ?!」

「おや、そうなのかい? レイチェルに子供なんて居たんだねぇ。じゃあ、今日はご馳走にしよう。後で何か持ってくよ」

「ありがとう」

「他の奴らにも言っとくから。その子に似合いそうな服もあったら頼んどくよ」

「助かるよ」


 あたしの驚きをよそに2人の会話はトントン拍子に進んで行き、びっくりしたまま固まっていたらいつの間にかシスの家に戻って来てしまっていた。


「えっと、アリシア?」

「あの、一緒に暮らすってどういうことですか?!」


 あたしには父さんのお店と沢山の従業員が居るのに。


 というか、母さんのお墓参りに行ったらそのまま帰るつもりだったのにどういうこと?!


「アリシア」


 パニックになっているとシスに名前を呼ばれた。


「アリシア君はまだ子供なんだ」

「……」

「子供は大人に甘えていいんだ」


 甘えてたらすぐに揚げ足を取られて父さんの店が乗っ取られてしまう。


 そうなったら父さんの店で働く従業員たちに苦労させてしまうだろうし、何より父さんの評判まで落とされそうで恐ろしい。


「アリシアは気付いてないみたいだけど、君の顔酷く疲れてる。君はもっと周りの大人に甘えていいんだ。少なくとも君の顔色がよくなるまでここで休んでいくべきだよ」

「でも……」

「君が君のお父さんのお店が気になるのも分かる。後継者は君だけなんだし、でも、本当に切羽詰まってるのなら周りの大人たちはもっと騒いでるだろうし、君にだって居て欲しいはずだからこんな風に僕のところに来れる訳ないだろう」


 言われてみればそうだ。


 あたしが働けば働く程みんな困ったような顔をしていた。


 あの時は子供のあたしが大人の仕事に口を出すのが嫌なのかと思って、母さんのこともあってちょうどいいからちょっとだけ息抜きにと思って旅に出た。


 あの時のみんなの顔ってどんな表情してた?


「だから、ここで休もう。ね」

「うん」


 気が付けばシスに促されるままに頷いてしまった。


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