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「えっと、使ってない歯ブラシはこっちで着替えは」
「あ、自分のがあります」
「あ、そう? じゃあ、着替えはそれ使って」
シスの家に泊まると決まればとんとんと話は進み、泊まる部屋とシャワーとトイレの位置を教えてもらった。
荷物はこの家に泊まることになってしまったので、外に待機させていたケイトに頼んで持って来た。
ケイトも泊めてもらおうかなと思わなくもなかったんだけど、母さんのことをじっくり聞きたかったし、母さんの弟なんだから危険もある訳ないだろうかとケイトには宿に泊まってもらうことにした。
ケイトは最初渋ってたけど、母さんの話聞きたいからと説得して納得してもらった。
あたしが泊まるのは母さんが使ってた部屋だったそう。
「片付けてしまった物もあるけど、クローゼットの中の服とかは片付けてないから自由に見てくれてもいいから」
「はい」
母さんが使ってた部屋は2階にあるこじんまりとした部屋だった。
あるのはベッドとクローゼットと化粧台ぐらいしかない。
化粧台の上には香水のビンが1つだけ残されていた。
クローゼットの中は服でぱんぱんになってたが、こんな服を着てたのかともう居ない母さんのことが少しだけ身近に感じられるような気がする。
「おじさんこの服って」
「おじさん……あの、僕まだ23だからおじさんはやめて欲しいかな」
「分かった。あの、それで、この服何着か欲しいって言ったら怒りますか?」
母さんの弟って言ってたからもっと年がいってると思ってたけど、思ってた以上に若い。
亡くなった時父さんは48だったけど、母さんはいくつだったんだろ?
あの写真のはそんなに年がいってるようには見えなかったけど、後で聞いてみよう。
「欲しいならいくらでも持ってっていいよ。……僕は姉さんとは10ぐらい離れてたからね。でも、僕そんなに老けてるかな?」
「あたしが勝手に思い込んでただけだから気にしないでください」
よくて20代後半から34ぐらいだと思ってたってことは内緒にしておこう。これは言ったところでどっちも得にはならない。
「あ、もうこんな時間かあ」
時計を見ればもう21時30分。子供は寝る時間だと言うつもりなんだろうな。母さんの話をしてくれるって言ってたのに……。
「そういえば夕飯を出してなかったよね。僕、絵に夢中になっちゃうと食べるの忘れちゃうんだ」
「えっ、はあ……そうなんですか?」
寝ろって言うんじゃないの? いきなり何?
「お腹は空いてる? あ、でも、何かあったかな? ちょっと見て来るからゆっくり来て」
「え、お構い無く」
グー
お構い無くと言った瞬間お腹の音が響いた。
「はは。お腹は正直だね。多分パスタぐらいはあったから作ってくるよ」
「……はい。先にシャワー浴びてから行きます」
しばらく笑ったシスはそう言うと階段を下りて行こうとするのでその背中に向かって声を掛けてシスが見えなくなってからシャワールームに飛び込んで熱くなった顔が冷えるのを待った。