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 列車を乗り継ぎ数日掛かってやって来た家は田舎の一軒家らしく都会と比べると大きめだ。


 ここに手掛かりがあるかもしれないとドキドキしながらドアノッカーを何度か叩いて鳴らす。


 ケイトには近くのお店でゆっくりでもしておくように言いつける。


 もしかしたら今は住んでなくても時たまここに戻って来て家の手入れをしてるんじゃないか、この庭に咲いてる黄色の花は母さんが好きだった花なんだろうか? この景色を母さんは毎日見て暮らしていたと思うだけで胸がドキドキしていつの間にかドアが開いていたことにも気付かなかった。


「だれ?」


 その低く艶のある声にハッとして慌てて玄関を見れば透き通った白い肌に青い瞳。黒い髪は後ろで縛っているのか毛先が肩から手前の方に流れている20代前半から半ばぐらいの男の人が立っていた。


「あ、あの、あたしはアリシア・クリンストン。レイチェル、母さんの娘なんですが、あの、ここで母さんが暮らしてたって聞いて」

「アリシア? ……何か聞いたことある。入って」


 母さんのことは言わなかったけど、否定しなかったってことは母さんの知り合いってことでいいのよね? これで知り合いじゃなかったら無用心過ぎるわ。


「こっちだよ」


 中に入ると外側と比べると古そうな印象。


 使い込まれた2階に上がる階段がすぐに見え、玄関脇にはちょっとだけ曇った姿見の鏡もある。


 こんなところで母さんはどれくらい過ごしてたんだろうかとそわそわしていると黒髪の男の人はリビングに通してくれた。


「座って」

「はい」


 座るように促されたので遠慮なくグレーのソファに座ってからソファが汚れていることに気付く。


「?」

「絵描きなんだ。何か飲む?」


 何の汚れなんだろうと見てたのに気付いたのか教えてくれた。


「あるもので」

「それならカフェモカにしようかな。飲める?」

「はい」


 本当は何もいらなかったけど、これからお母さんについて教えてもらうのにここで拒否するのもどうかと思ってお任せでお願いすることにした。


「それでレイチェルの知り合い?」

「娘です」

「娘ね」


 この人は何も入れてないブラックコーヒー。あたしもそっちを頼めばよかったかもと思いながら甘いカフェモカを飲んだ。


「あの、失礼ですが、母とは」

「ああ、言ってなかったね。僕はレイチェルの弟のシスって言います。聞いてない?」

「弟……」


 母さんに弟がいたなんて知らなかった。


「あの、それなら母さんがどこに居るのか知ってますか?」 


 父さんが死んで母さんが生きていると知ってここまで来たことを説明するとそれまでずっと黙っていたシスが大きなため息を吐いた。


「ああ、そうか。向こうにも伝えとくべきだったか……」

「あの」


 おじさんと言うにはまだ若い青年になんと言って呼び掛けようか迷って声を上げるが、シスは頭をぐしゃぐしゃとかき回してあたしの声に気付きそうもない。


 シスが落ち着くのを甘いカフェラテを飲んでゆっくりと待とう。


「……ええっと、その、なんて言っていいのか分からないんだけど」


 それからたっぷり時間が経った頃。


 ようやくか。カフェラテはすっかり飲み干したけど、シスは銅像にでもなってしまったかのように動かない。


 暇過ぎて部屋の中を観察して回ろうか1回帰るべきかどうしようか迷っているとようやくシスが口を開いた。


「母親を探しに来た君にこんなことを言いたくないんだけど……」

「死んだんですか?」

「へっ」

「だっておじさんずっと黙り込んでるし、やっと口を開いたと思ったのに言い出さないからもしかしてあたしに言いにくいことがあるんじゃないかなって考えたらそれ以外は思い付かなかったんです」

「おじさん……ああ、うん。そうなんだ。実は3年前にね。交通事故だったんだ」

「そうですか」


 父さんの嘘が本当になってしまってしまっていたなんて。


 あたしは本当に天涯孤独になってしまったのか。居るのはハゲ鷹みたいな親戚だけなんて嫌過ぎる。


 11歳の女の子にあんな連中と戦えって神様は何を考えてるのよ。父さんを連れて行くのならもう少しあたしが成長してからにして欲しかった。


「母さんが死んでたのならあたしはこれで失礼します」

「ちょっと待って!」

「?」


 今からだと列車は何時になるかなと考えながら立ち上がるとシスが呼び止めて来た。


「今日はもう遅いから泊まっていきなよ。うん、それがいい。そしたら明日は姉さんのお墓に行こう」


 時計を見れば夜の8時。夕方よりちょっと前に来たはずなのにもうこんな時間。確かにこんな時間に出歩いている子供は少ないだろうけど──


「平気です。馬車を呼んでくれれば泊まっている宿に戻れますから」


 寝るには早すぎる時間だ。


 まだ宿は取ってないけど、チップを弾めばすぐに泊めてくれるはずだ。


「……そうか」

「まだ何かあるんでしょうか?」


 母さんが死んだって分かったんだから帰ってあのハゲ鷹たちを処理して父さんの事業を適切な人に引き継いでもらったり、あたしがやれる分は出来るだけやらないと世間まで敵に回したら働いてくれてる人たちに申し訳ない。


 用がないのなら早く馬車を呼んで欲しい。


「いや、うん。僕、姪っ子って初めてだからもう少し話したいなっていうか、ほら、姉さんの話も聞けるから君には悪い話しじゃないよ」 

「母さんの話……」


 確かに母親という存在に憧れていたあたしにはとてつもなく魅力的なお誘いだ。


 母さんがあたしのことを話してたかもしれないと気付けばシスに頷いてしまっていた。 

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