突然の異世界、戦闘そして出会い
初めての異世界転移ものです。馴染みのない西部劇風の世界ですがよろしくお願いします。アクションや冒険、恋愛などエンタメ要素を盛り込んでいく予定です。
プロローグ
夜勤明けで自宅に戻ると玄関ドアの前に小さな包みが置いてあった。いわゆる置き配というやつか。
しかし心当たりがない。場合によっては配送業者に返品しなければと思い、手に取ってみる。
するとずっしりと重い手ごたえがあった。なんだろう。俺は茶色い紙袋の封を切った。
その中身を見て俺は固まった。銃だ。黒光りする銃が入っていたのだ。これは大事だ。警察に届けなければ。
頭でそう考えつつ、俺の手は別の動きをしていた。袋の中に手を突っ込むと銃を取り出したのだ。
それは見慣れない銃だった。弾倉も引き金も無い。どうやって撃つのだろう。
あれこれこねくりまわしていると、突然、銃が光りだした。
あまりの眩しさに目を閉じ、腕で顔を覆う。それでも光は消えず、やがて視界がホワイトアウトした。
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目を開けると青空があった。それも雲一つない快晴だ。俺はのそのそと起き上がった。そして目を見張った。
「ここは……どこだ」
思わず声に出して呟く。それほど見慣れない風景が広がっていた。まず一面の荒野である。建物の影一つ見えない。ぽつぽつと岩の柱が突っ立っているだけだ。そして定規で引いたように真っすぐな地平線。
ここは日本でないことは明らかだ。あまりの成り行きに俺はその場にへたり込んでしまった。
すると右手が固い物に触れた。見るとあの銃があった。俺はそれを手に取った。これのせいなのか。まさか、とは思うが他に理由が思いつかない。
しばらく銃とにらめっこしていたがどうやって日本に戻れるのか手掛かりさえない。
「そうだ、スマホ」
スマホがあれば誰かに連絡できる。かけたからと言ってこの事態を解決できるとは思えないが、少なくとも安堵感は得られるだろう。
そう思って探してみたが体中どこを調べても無かった。
途方に暮れた俺は顔をあげ、気休めに景色を眺めた。どこまでも続く荒野。何もない。
そのうち飽きてきて空でも眺めようかと思ったときである。唐突に地平線の彼方に砂煙が巻き上がった。
何事かと見守るうち砂煙は大きく近くなってくる。俺は固唾を飲んだ。やがて子細が明らかになった。
それは馬車と騎馬の一団だった。一塊になって全速力で駆けている。何かから逃げているようだ。
気になってその後方を見た俺は我が目を疑った。何か得体の知れないものがカエルのようにぴょんぴょん飛び跳ねて追いかけているのだ。
しかしこの距離からすれば大きさはカエルどころではない。化け物だ。俺は確信した。ここは日本どころか地球ですらない。
なんということだ。俺は愕然となった。あまりの事態に気が動転する。
そんな腑抜けになりそうな俺の頭を叱咤したのは一つの悲鳴だった。馬車の御者が化け物に引きずりおろされたのだ。
そのせいで馬車はコントロールを失い、騎馬の一団の算を乱した。当然スピードも落ち、化け物に追いつかれる恰好になった。仕方なく彼らは剣や銃で反撃を始めた。しかし劣勢なのは明らかだった。
俺はその有様を茫然と眺めていた。彼らを助けなければと思うのだが手立てが思いつかないのだ。
当たり前だ。今まで戦ったことなどないのだから。
そうやって手をこまねいているうちに怪我人が出だした。このままでは死者が出るのも時間の問題だろう。
俺はおもわず目を背けた。すると突然右腕がかっと熱くなった。何事かと思って見やると右手に持っていたあの銃がまたもや光りだしていた。しかも何事か語り掛けるように点滅している。
俺は無意識のうちに銃を持ち上げ構えた。そして一匹の化け物に狙いをつけると(撃て!)と心の中で命じた。するとまばゆい光芒が銃からほとばしり、化け物の体を貫いた。化け物は塵となって消えた。
それは一瞬の出来事だった。だがその一発が状況を劇的に変えた。騎馬の一団から歓声があがり、攻勢に転じたのだ。
一方化け物の方は理解不能の事態に困惑し、動きが鈍くなった。その隙をついて俺は銃を連射した。面白いように化け物が消滅していく。そうやって数が三分の一までに減ったところでついに化け物は逃げ出した。
「ふう」
俺は一息吐く。体中に舞い上がるような爽快感が広がった。こんな体験、久しく味わったことはない。
その間に騎馬の一団が馬から降り、口々に賞賛の声をあげながら馬を降り、歩み寄ってきた。
今気づいたのだが皆濃紺の同じ服を着ている。どうやら兵士のようだ。その中の一人に目を留め、俺は目を見張った。長い黒髪と膨らんだ胸から分かる通り女性だったのだ。
「お前すごいな。お陰で助かったよ」
満面の笑みを浮かべた女性兵士は大きな声を出すといきなり俺を抱きしめた。
女性兵士は思いのほか長身で、俺の顔が彼女の胸に押し付けられる恰好になった。ちょっとどぎまぎする。
「喜ぶのはそれくらいにしておけクラーク中尉。新手が来る前に出発するんだ」
突然ぴっしっとした声が辺りに響いた。
「イエス、サー」
クラーク中尉と呼ばれた女性はさっと敬礼すると俺から離れていった。
俺は声の主を見やった。年の頃は三十半ばとみられる男性だった。着ている軍服は兵士たちより上等で、一角の地位にある人物だと知れた。
「色々と見させてもらったよ。疑問に思う点がいっぱいだ。詳しくは馬車の中で聞かせてもらおう」
俺も聞きたいことがたくさんある。何しろここがどこであるかすら分からないのだから。
馬車は痛んだところもなく、御者も命に別状はないようだ。俺は男に促されて馬車に乗り込んだ。
「あら、英雄のご帰還ね。先程の働き、見事でした」
馬車には先客がいた。相手の顔を見て俺は一瞬動きを止めた。そしてぶしつけにも相手の顔を呆けたように見つめ続けてしまった。
座席には一人の女性が座っていた。軍服を着ているところをみると彼女も兵士のようだが、先程のクラーク中尉と全く様子が違う。
気品のある顔立ちに涼し気な口元、結い上げた金髪はつやつやとした滑らかさを保っている。こんな美しい女性を今まで見たことも無い。
「どうしました。私の顔に何か不審な点でも」
女性は無邪気に問いかけてきた。指摘を受けた俺は慌てて視線を逸らすと、そそくさと席に着いた。
ついで男が乗り込む。男は女性の隣に座った。二人は自然に体を寄せあった。
「出せ」
男は馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。それに応えて御者の掛け声がし、馬車は動き出した。