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ラヴァーズ コンチェルト

作者: 真穂郁子
掲載日:2022/04/03


気怠い朝だった。

布団が肌に触れるのも不愉快で、

かと言って、ここから出て一歩

歩き出すのも億劫な、そんな日。


原因は分かっていた。

願掛け疲れ。

そう、さっき自分で名付けた。

1ヶ月前に喧嘩をした直後から

一切連絡が途絶えた彼と

もう一度、縁を結んでほしいと、

神社に週3で通っていた。

行かなきゃいけない虫歯の治療なんて、どうでもいいし、

友人の食事に誘うメールも、

全く興味が無かった。

とにかく、今必要なのは神頼みの時間だ。

だって、困る。

彼がいないと毎日に意味を感じない。

仕事も行きつけのレストランも、

色が無くなった。

これじゃあ、息をしているだけの人生になる。本気で困る。

何度も何度も、彼に謝りのメールをしたし、電話もかけたけど、無駄。

もはや自分ではなす術がない。

頼りは神様だけなんだから仕方ない。


でも誠心誠意、どれだけ真剣に祈りを捧げても、

物事は、全く動かない。

神様にも嫌われたのか?

私は祈り過ぎて、そして叶わな過ぎて

枯れてしまったに違いない。


そして今朝、とうとう何にもしたくない朝を迎えた。

幸いなのは、きょうはリモートワークで、

午後からオンライン会議に、ちらりと参加すれば、

それで済む。

虫歯の治療に出向くエネルギーはないし、

待たせている友人の食事の返事もする気は起きない。

きょうは基本、寝て過ごそう。

こんなとき、ワンワン泣ければ良いんだろうけど、

いったい、何が起きているのか掴んでいないから、

泣く気にもなれない。

だって私が彼から離れるなんて、

彼が、もう戻って来ないなんて、

そんなこと、人生に起きるの?

彼と一緒になったら、自慢のコーヒーを毎朝淹れて、

得意なスクランブルエッグとカリカリベーコン、

彼が大好物な最高に美味しいベーグルを用意して、

笑顔でいってらっしゃいすることも決めていたし、

疲れて帰宅する彼に、栄養満点の優しい食事を作って

安らいでもらうことも、足裏とか肩とか、マッサージしまくることも、

完全に決定事項だったのだから。


5年前、彼と仕事で出会い、

気付いたら、私の人生で唯一無二の人になった。

何故?と聞かれても困る。

彼の笑顔が大好きだから、

絶やさないように支えていきたい。

ただ、その一心でしかない。

何もいらない。


喧嘩の原因を考えてみる。

彼を好き過ぎて、多分暴走した。

会えないと不安になり、

愛情表現が薄いと不安になり、

自分の不安を受け止めてほしくて、

不愉快な言葉ばかり並べてしまった。

一足早く恋愛が落ち着いて、

恋をしていなくても幸せでいられるようになった彼に対して責めてしまった。


今、やっと気が付いた。

愛は、こんな風に静かなものなんだ。

そして、もう揺るがないんだ。

私が、そこに気付かないから

何も動かなかったんだ。


会議用にセットしていたタイマーが鳴り、

そのタイミングで、スマホの画面が

光った。

いっぺんに見るものに色が付いた。

1ヶ月ぶりに、何て言おう。


明日は急いで歯医者に行かなきゃな。

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