第五章9 土壇場の性転換!?
「くっ……うぅっ!」
突進の勢いを上乗せした光の剣の威力は、凄まじいものだった。
両手で剣をしっかりに握ってその一撃を受け止めるも、その威力を相殺しきれない。
刃と刃を交えたまま、靴底をすり減らして後方に押し下げられる。
数十メートル進んだ場所でようやく止まったが、依然として、テレサの攻撃をなんとか押しとどめている状態だ。
(まずい! このままじゃ押し切られる!)
地面を踏ん張り、剣を握る手に力を込めながら私は脂汗を垂らした。
現状なんとか拮抗しているけれど、この状態がいつ崩れてもおかしくない。
ぎりぎり押し負けてはいないけれど、逆転することはまずない。
そういう手詰まりな状況なのだ。
「ふふふっ、思ったより粘りますわね……」
X字型にクロスした剣の向こう側にいるテレサが、にやりと微笑んだ。
「でも、このままじゃ貴方に勝ち目はありませんわよ? 今の貴方では……」
そう意味深に呟いた瞬間、テレサは追い打ちをかけるように魔術を起動する。
「《削命法―暴風》ッ」
起動する魔術の属性は風。
指向性を持った風が、私の真上に起動して。
ズンッ。
強い風が、私を地面に押しつける。
重力が何倍にもなったかのような重さが身体にかかり、たまらず膝を突きそうになる。
光の剣と風。
どちらか片方だって耐えるのが精一杯だというのに、この状況を耐えきれるはずがない。
(今の、私じゃなければ――)
今にも押しつぶされそうになるのを、歯を食いしばって耐えながら、先程テレサが呟いた言葉を反芻する。
とっくに気付いていた。
テレサが近接戦闘に持ち込んだ理由も、意味深な言葉を呟いた理由も。
今の私じゃなければ、この状況を打開できる。
それは即ち――
「私が、《男》ならぁああああああああああああああああああああああああああッ!!」
祈るような気持ちで、私は喉が割れんばかりに叫んだ。
すると。
どくん。
不思議な胎動が身体の中に生じる。
次の瞬間、どこからともなく現れた煙が目の前を覆い尽くし――モリモリと力が湧いてくる。
(こ、これは!)
これまで、何度か経験した変化。
私の性別が変わる兆し。
瞬間、煙が晴れる。
私―いや、僕の身体に溢れる圧倒的な男☆パワー。
同時に僕は、思いっきり地面を踏み込んで、光の剣を押し返した。
「くっ!」
派手に後方へ飛ばされたテレサはすぐさま態勢を立て直し、こちらを睨みつける。
「ふ、ふふ……そういうことですわ。ようやく、性別を任意で変更する条件に気付いたようですわね」
「うん、まあ……なんとなくね」
頭上からのし掛かる暴風の重さをものともせず、歩いてその場から離れた私はそう答えた。
おそらく、《男》と口に出せば男になり、《女》と口走れば女になるのだろう。
随分と時間がかかってしまったが、ようやくこの身体をものにできた気がした。
「さあ、続きを始めましょうか」
僕は剣を構え、その切っ先をテレサへ向けた。
うん。やはり剣技は、この身体の方がしっくりくる。




