第五章8 大魔術の衝突
燃えあがる。
テレサの両手に渦巻く炎が、闇夜を煌々と照らし、大気を焦がす。
「《削命法―火炎―二連符》ですわッ!」
高らかに叫び、炎を地面に叩き付けた。
次の瞬間、凄まじい地鳴りと共に、炎が大地を走る。
地表を割り、岩盤を崩し。
その裂け目からマグマのような炎を噴出させながら、私達に肉薄する。
しかしレイシアは、そんな世紀末のごとき光景を前にしても一切たじろぐことなく、淡々と対抗呪文を唱え始めた。
「《珠玉法―水晶・結氷―五重奏》ッ!」
地面に投げた五つの水晶が白く輝き、瞬く間に大地が凍てついてゆく。
そして――衝突。
大地を走る赤と白が互いにぶつかり合い、氷が気化したことで生まれた熱風が吹き荒れる。
「ふふっ、やりますわね」
ビュウビュウと白い嵐が辺りを埋め尽くす中、テレサの不気味な笑い声だけが耳に届いた。
「ふんっ、白々しいことを言うな。 《珠玉法―紫水晶・霹靂―六重奏》ッ!」
テレサの言葉など意にも介さず、意趣返しとばかりにレイシアは雷撃魔術を連射する。
いや、乱射と言った方が正しいだろうか?
真っ白に煙る視界では、相手の姿など見えない。
故に私は、レイシアが“下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”の精神で攻撃しているのだと、そう理解して――
「流石ですわね!」
真横から声が聞こえて驚いて振り返ると、いつの間にか白い煙の中から出てきたテレサがいた。
「ワタクシの動きをピンポイントで察知し、攻撃を仕掛けて来るなんて……思ったより、魔術的視覚は鍛えておいでですのね?」
「当たり前だ。これでも、王宮魔術師団の長だからな」
それを聞いた私は、驚嘆した。
視界を奪われても、レイシアは適当に撃っていたわけではなかったのだ。
一発一発、確実にテレサへ狙いを定めて、攻撃を放っていたらしい。
私も、魔術的視覚を鍛えられるだろうか?
「……撃ったのはいいが。貴様の心臓を確実に狙った攻撃を六発も放って、掠りもしないとはな」
レイシアは忌々しげに吐き捨てる。
それを見て取ったテレサは、何やら怪しげに微笑んで。
「そうですわね……このままでは、前回の二の舞になってしまいますわよ?」
挑発的な口調で告げると、とんッと地面を蹴って駆けだした。
「《削命法―光輝》ですわ!」
テレサの手に出現する、光の剣。
それを構え、迅速で駆けるテレサが見ているのはレイシア――ではなく私!?
彼女の淀んだ赤色の瞳に射貫かれ、一瞬躊躇いが生じる。
その隙に、懐まで一息に詰められてしまう。
もう魔術による迎撃は間に合わない!
「くぅッ!」
咄嗟に抜刀し、光の刃が届くギリギリで攻撃を受け止めた。
しかし、安心など出来ない。
ここで私は、テレサが接近戦を仕掛けてきた巧妙な理由を思い知った。




