第五章7 カモを狩る策略
《三人称視点》
一方。
ロディとフィリアを筆頭とした王国の兵士達と、カモミールを筆頭とした〈ウリーサ〉の魔術師達は、未だにいがみ合っていた。
今すぐにでも血で血を洗う大激突が起こりかねない、一触即発の状態――唯一、あの二人を除いて。
「不機嫌そうだな、フィリア」
「当然? フィリアとしては、おにいと一緒に戦いたいわけだし」
「へっ、言ってくれるぜ。相方が俺というダンディーな男じゃ不満か?」
「キャンディーの方がマシ」
「俺はキャンディー以下か? ははっ、舐められたもんだな」
「キャンディーだけに?」
「そういうことだ」
敵を前にして尚、二人の周りだけ別次元であるかのように緊張感が無い。
そんな二人を見て、苛立ちを隠せない人物がいた。
「お前達、ふざけているのかも?」
カモミールは、苛立ち混じりに問うた。
普段、飄々とした態度を崩さない彼が、ここまで苛立っているのは理由がある。
それは――
「〈総長様〉がいたさっきまでは、あんなにビビってたのに、今は凄く余裕そうかも? 僕を馬鹿にしているのかも?」
そう。
カモミールが指摘した通り、先程までは確かに油断なく身構えていた彼らだったが、テレサがいなくなった瞬間、急にお喋りを始めたのだ。
カモミールや他の魔術師など、まるで眼中にないとでも言うように。
その、あまりにも相手を舐め腐った態度をされて、カモミールが腹を立てるのも無理は無い。
カモミールとて、〈ウリーサ〉の魔術師の中ではテレサに次いでNO.2の実力者だ。
当然、プライドくらいある。
故に――
「僕をあまり舐めない方がいいかも。これでも一応、腕は立つかも」
彼らの侮辱を看過できず、カモミールはそう言い放った。
すると、不意に二人は話をやめて、無言で顔を見合わせる。
それから、二人同時にカモミールの方へ視線を投げた。
「別に、舐めてるわけじゃねぇぜ? お前の強さ、この前の闘いで痛いほど思い知ったからな」
「? じゃあなぜ……?」
言葉とは裏腹に、勝ち気な表情を崩さないロディを見て、カモミールは眉根をよせる。
「へっへ~ん! 舐めてるんじゃなくて、余裕を見せてるんだよ? なんたってフィリア達、カモミールさんとの戦いの対抗策を、しっかり考えてきたんだもんね!」
「実際に対抗策を考えたのは俺だがな?」
「う~んと……そうだっけ?」
「そうだぜ? お前はそれを聞いてただけだろうが。しかも全っっっ然言ったことを覚えねぇし。なんで五回も同じ説明をしなきゃならねぇんだ」
心底疲れたとばかりに、ロディはため息をつく。
「ま、ドンマイ!」
しかし、そんなロディへ、憎たらしいほどの笑顔でサムズアップするフィリアの図。
「はぁ……まあいい。兎に角、そこのカモ野郎」
ロディはビシッと人差し指をカモミールに向ける。
「お前を倒す算段は付いた。精々、寝首を掻かれないように頑張るんだな?」
「ふんっ、馬鹿な奴らかも。小手先の作戦で、僕を倒せると本気で思ってるのかも?」
カモミールは嘲笑混じりに告げる。
「当然だ!」
「もちろん!」
しかし、返ってきたのは自信に満ちあふれた肯定だった。
自分たちの勝利をまるで疑っていない。
その態度に、カモミールの苛立ちは募っていくばかりだ。
「いいかも! そこまで言うなら、君たちが強いと証明してみせるかも!」
「望むところだ! カモ野郎!」
「覚悟するんだよ!」
各々がそう叫んだ瞬間。
その時を待ちわびていたかのように、両サイドの兵士や魔術師達を含めた全員が、一斉に状況を開始した。




