第五章5 複合魔術を重ねて
「《珠玉法―金剛石・障壁―水晶・結氷―接続曲》ッ!」
叫ぶ呪文は、レイシアと同じ。
渦巻く凍気を纏った障壁が、ひび割れた障壁の後ろに展開される。
そして次の瞬間。
ガシャアアンッ!
ガラスが割れ砕けるような音を立てて、レイシアの起動した魔術障壁が砕け散った。
(ま、間に合った……)
私は思わずホッと息を吐く。
まさか、テレサの魔術がレイシアの魔術障壁をいとも簡単に突破するほどの威力だとは。
いくら威力の高い《削命法》とはいえ、想像を絶する攻撃力に戦慄を禁じ得ない。
既に魔術の勢いが収まり、炎の残滓が空中に漂う様子を見据えながら、私は歯がみする。
その先で、テレサはまるで帝王のように、悠々と佇んでいるのであった。
「ふふっ……流石、以前相対した時と同じで、良い連携ですこと。お互いを信じ切っているのでしょうね。ワタクシ、なんだか妬けてしまいますわ」
「ふん。戯れ言を抜かせ……」
レイシアは忌々しげに吐き捨てる。
だが、その頬にはほんのりと赤みが差していた。
「あら、事実を言ったまでですわ。そう邪険に扱わないでくださいな。これでもワタクシ女ですから、言葉は優しくかけていただきたいものですわ」
「相変わらず、腹が立つくらい飄々としているな貴様は」
「お褒めに預かり、光栄ですわ」
「褒めていないのだがな」
レイシアは、小さく舌打ちする。
「何を考えているのかわからんから、薄気味悪いと言ったのだ」
「あら。ミステリアスというのは、女性を際だたせる魅力の一つでしてよ?」
「――、……そうか」
マトモに返すのも馬鹿らしくなったのか、レイシアは首肯するのみに留めた。
「それよりも……ワタクシ、一つ要求があるのですが、聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「藪から棒に……一体何だ?」
レイシアは、いかにも「警戒しています」と言わんばかりの仏頂面で問い返す。
「そんな怖い顔で睨まないでくださいな。綺麗な顔が台無しですわよ?」
「余計なお世話だ。あと、一々話を脱線させるな」
「申し訳ありません。……ワタクシの要求は、貴方様とカース様。両名と戦わせていただきたい、ということですわ」
「なんだと……?」
レイシアの眉が、僅かに歪められる。
私も、思わず首を傾げてしまった。
「何をわけのわからんことを言っている。どのみち、余は貴様らと戦わなければならんのだぞ?」
「あらまあ、少し勘違いをさせてしまいましたか? ワタクシが望んでいるのは、ワタクシ対お二方のみでの勝負ですわ」
「ほう? つまり、以前の闘いの焼き直しというわけか?」
「平たく言えば、そうですわね」
「前回と同じシチュエーションで、完璧な勝利を収めたいなどという魂胆か?」
「さあ、それはどうでしょうか?」
テレサは、薄く微笑みながら答えた。
思った通り、テレサははぐらかした。
これに関しては、言及したところで無駄だろう。
とにかくこの場は、レイシアがどう答えるかにかかっている。
「貴様の要求を受け入れることについてだが、余は一向に構わん」
そう答えて、レイシアは確認を取るかのように私の方に視線を向けた。
私の答えも一緒だ。
レイシアの決定に、異論はない。
私が頷き返したのを見て取ると、レイシアはテレサの方に向き直った。
「カースもOKだそうだ」
「それは嬉しい限りですわ。お二方、ありがとうございます」
「ふん」
「まぁ……はい」
テレサは不機嫌そうに。そして私は曖昧に返事をした。
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