第五章4 種明かし テレサの《削命法》
テレサは左腕を横に掲げる。
同時に、開いた手に光の粒子が集まっていく。まるで、空気中からHPでも吸い取っているかのように。
(いや違う。実際に吸い取っているんだ……!)
私は、以前テレサと戦ったときのことを思い出して、そう結論付けた。
私の記憶が正しければ、テレサは〈契約奴隷〉を引き連れていなかった。
《削命法》は、生き物の命を触媒に起動する魔術であるはず。
しかし、彼女は手ぶらで魔術を使っていたのだ。
あのときはそんな疑問に突っ込んでいる余裕なんて無かったから、気にも留めていなかったが……今こうして彼女を目の当たりにして、その種がわかった。
(あの光の粒子が、触媒になる生命力そのものなんだ!)
心の中で叫んだ瞬間、テレサの魔術が産声を上げた。
「《削命法》―火炎》ですわ!」
彼女の纏う深紅のゴシックドレスよりも、更に真っ赤な赤色が視界を焼く。
十中八九、間違いない。
空気中に漂う生命力を触媒に、炎の魔術を全開で起動したのだ。
全幅数十メートルはあろうかという炎の荒波が、うねりを上げて迫り来る。
触れたら、全身が真っ黒焦げになるどころじゃ済まない。
骨すら跡形も無く燃やし尽くされ、文字通りの消し炭になるだろう。
「くっ!」
額から滲み出る汗がじりじりと音を立てるのを感じながら、剣に添えていた手を咄嗟に放し、懐へ伸ばす。
だが、目当ての宝石を探している間にも、炎の荒波が迫る、迫る。
(しくじったかも……ッ!)
いろいろ考えていたせいで、明らかに対応が遅れた。
対抗を撃つための宝石を見つけて取り出した頃には、もう目と鼻の先まで赤色が迫っていて――
「《珠玉法―金剛石・障壁―水晶・結氷―接続曲》ッ」
刹那、氷のように凜と張り詰めた声が響く。
いつの間にか、私の前に躍り出ていたレイシアが、淡々と呪文を唱えたのだ。
炎の大波が私達を飲み込む直前、レイシアの複合魔術が完成。
凍える冷気を纏った魔術障壁が、王国の兵士全員を護る大きさで展開され、業火を真正面から受け止める。
流石は頼れるレイシアさん!
(元)王宮魔術師団総隊長の対応力の高さは、伊達ではない!
それを誇りもせず、魔術に魔力を送っているレイシアの後ろ姿を見て、私は惚れかけてしまい――
けれど、そんな悠長なことをしている時間は、どうやらないらしい。
バキバキと音を立てて、障壁にヒビが入り始めた。
単純に、テレサの放つ炎の魔術の威力が高すぎるのだ。
(やばいッ!)
私は慌てて宝石を取り出し、呪文を叫んだ。




