第五章2 知られざる真実
「戦う前に、一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
私は、テレサ達の方に一歩近づいて問うた。
「なにかも? この状況で僕とお喋りかも? 随分と舐められたものかも」
「別に舐めてるつもりは無いですし……そもそも貴方と話すわけじゃないんで」
何かいろいろと勘違いしているカモミールの言葉を軽く受け流し、テレサの方に向き直った。
「ふふふ、何か聞かれるだろうとは、予想していましたわ」
テレサは艶然と微笑んだ。
淀んだ赤い瞳は、相変わらず底知れぬ“何か”で溢れている。
彼女の心中を探ることなど、到底できそうにない。
それでも、私はずっと聞きたかったことを口にした。
「どうして、王女の監禁場所を私に教えたんですか?」
とたん、周囲の魔術師達がざわつき始める。
それは下っ端の者達に留まらず、右腕であるはずのカモミールさえも、驚いたような表情を顔に貼り付けて、テレサの方を凝視していた。
「〈総長様〉、それは本当かも?」
カモミールは、驚きのあまり言葉を小刻みに揺らしながらテレサに問う。
しかし、テレサは無言。
カモミールの方を見ようともせず、壊れた人形のようにそこに立っているだけだ。
(なるほど……?)
取り巻き達がそういう反応をするということは、あの時私に会いに来たのも、テレサの独断であったということだ。
臭わせていた通り、〈ウリーサ〉の罠ではなかったのである。
(まあ、だとしたら尚更気になるんだけどさ……)
私は、テレサを注意深く見据える。
いや、私だけじゃない。
〈ウリーサ〉の魔術師達やロディを筆頭とした王国の兵士達も、皆一様に瞬き一つせず、テレサの方を見ている。
だが、そんな猜疑の目を一身に受けながらも、テレサは表情を全く崩さない。
そればかりか、余裕すら見て取れる。
一体、何を考えているのか?
自身に従う魔術師達を欺し、敵である私の手助けをした。
それがバレた今でも、彼女は何処吹く風と言った様子だ。
心底、気味の悪い女だ。
顔は良いけど、絶対モテない。
(まあいい。どのみち、この状況では何かしらの理由を言わざるを得ないでしょ)
未だに沈黙を貫くテレサを見据えながら、彼女の口から真相が紡がれるのを待つ。
こうして隠し事がバレた以上、理由を言う他ないはずだ。
しばらくして、テレサは不意に口元を笑みの形に歪め、語り出した。
「……まず、ワタクシがカース様に王女様の居場所をお教えしたことは、事実ですわ」
途端、敵味方問わずざわめきが大きくなった。
しかし、私が聞きたいのはそれじゃない。
私が知りたいのは――
「そして、カース様にそのことをお教えしたのは、ひとえにお父様からの勅命が下ったからに他なりませんわ」
「ね、ネイル様直々のご命令ですかも!?」
途端、カモミールを初めとした〈ウリーサ〉の魔術師達が目を見開いて硬直する。
皆、その人物の名に恐れおののき、平伏しているかのような雰囲気すら感じる。
(お父様……? ネイル様……?)
よくわからないけれど、彼らの反応を見る限りメチャクチャ偉い人のようだ。
(まあ、理由にはなってない気はするんだけど……)
そんなことを思っていると、テレサが口を開いた。




