第四章36 再び、闘いの地へ
(着いた!)
しばらく走り続けて、私は〈ディストピアス〉まで戻ってきた。
外側から爆発でこじ開けられたのか、大きくひん曲がっている門を潜って都市に入る。
予想してはいたけれど……街の中はそれなりに酷い有様であった。
周囲の建物は崩れ、所々から火の手が上がっている。
巻き込まれた一般人が、路面に倒れ伏している姿も散見された。
まあ、〈ロストナイン帝国〉がこちらに攻めてきたあの夜と比べたら、遙かに被害の規模は小さいが。
ロディとレイシアの指揮能力の賜と言ったところか?
それでも、帝国の首都に大勢で攻め込んでいるという事実は変わらない。
どうしても、一般人に累が及ぶ事態は避けられないのだ。
(……ごめんなさい)
散々帝国に苦しめられてきたとはいえ、やはり罪悪感はある。
既に絶命している名も知らぬ誰かの前で、合掌する。
そのとき、遠くで爆音が上がった。
その方向に視線を向けると、火柱と共に黒い煙がもうもうと立ち上っている。
(あそこで、戦ってるのか……)
瞬時にそう判断を下し、私はその方向に向かって駆けだした。
路地から路地へ縫うように駆け抜け、見当を付けた場所を目指す。
その内に、あることに気付いた。
目的地に近づくごとに、路地の数が減っていくのだ。
(というか、路地を形成する建物の数そのものが、減っている……?)
徐々に建築物が減り、その代わりに田んぼや畑なんかが増えてきた。
首都なのに、なんで畑が……?
そう疑問を抱いたが、すぐに思い出した。
〈ディストピアス〉は、周囲が高い石壁で囲まれた要塞都市だ。
おそらく有事の際、完全に独立して稼働させることができるように設計されている。そう考えても不思議ではない。
現在のように攻め込まれてしまった以上、もう要塞としての機能を果たさないが……帝国の軍事面における恐ろしさの一端を垣間見た。
やがて、建物そのものが周囲から消え、完全な田畑が広がる場所となった。
その、一気に開けた視界の中心に――
「いたっ!」
私は、思わず声を上げた。
ロディとレイシアの率いる王国の兵士と、〈ウリーサ〉の魔術師達が戦っているのが見えた。
遠目で見た感じ、ロディとフィリアを筆頭とした騎士達が前衛。レイシアを筆頭とした魔術師達が後衛で、連係攻撃を行っている。
勝手に確執の多い両組織だと思っていたけれど、なんだかんだで息が合っている。
その証拠に、現状王国側が押しているように見えた。
(それにしてもロディの奴、粋なことをするな……)
人口密集区域での闘いを避け、こうして人気の無いところでの闘いを選択するとは。
まあ、単に、〈ウリーサ〉側が被害の拡大を恐れてこの場所まで誘導しただけかもしれないが……
いずれにせよ、ここで戦うのは良い選択だと思う。
(どうしようか……急いで加勢しに来たけど、なんかウチら優勢っぽいし。私の出番なくね?)
わざわざ焦って来る必要もなかったらしい。
骨折り損のくたびれもうけとは、まさにこのこと。
思わずため息をついた――次の瞬間。
轟ッ!!
突如として、凄まじい熱風が辺り一帯に吹き荒れた。
(な、何!?)
驚愕する私の視線の先。
丁度、王国と帝国がいがみ合っているそのど真ん中に、巨大な炎が渦巻いている。
その火柱は天高く伸び、鮮烈な緋色を撒き散らしていた。
やがて、炎の渦が跡形も無く消え去る。
その中心に、二人の人物がいた。
「あ、あれはッ!?」
その人物達を認識した途端、私は声を上げた。
一人は、一見モブにしか見えないひょろがりな男。
そしてもう一人は、赤いゴシックドレスを身に纏った妖艶な女。
前言撤回だ。
ここから、かなり白熱した闘いになる。
確信めいた予感に、私は図らずも唾を飲み込んだ。
第四章はこれにて完結です!
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第五章は、テレサの秘密や、〈ウリーサ〉の裏側が明らかに!?
真夜中に繰り広げられる白熱の決戦を、お見逃しなく!!




