第四章31 追っ手を振り払って
「絶対に逃がすな!」
「ああ、ここで仕留める!」
虚ろな目の〈契約奴隷〉達を引き連れて、魔術師達がこちらへ向かってくる。
「くっ! 私の後ろに下がっていてください!」
「は、はい! わかりました!」
セルフィスを庇うように立つのと同時。
魔術師達が一斉に詠唱を開始した。
「《削命法―暴風》ッ!」
「《削命法―霹靂》ッ!」
途端、猛烈な勢いで回転する風が生まれ、幾条もの紫電を巻き込みながら私達に迫る。
それを見据えつつ、セルフィスを放したことでフリーになった手を懐に突っ込む。
二度三度、中で手を転がして目当ての宝石を二つ取り出した。
「《珠玉法―金剛石・障壁―二重奏》ッ!」
刹那、私の目前に展開される半透明の六角形障壁。
肉薄するこうげきは、ダイヤモンドの二倍の強度を誇る分厚い魔力壁に押しとどめられ、余波が左右に流れて行く。
「ちぃッ!」
「猪口才なッ!」
荒ぶる風の向こうで歯がみをする魔術師達の姿が、ほんの一瞬垣間見え――
次の瞬間、障壁の向こうで荒ぶる風と紫電が急速に弱まる。
(今だッ!)
それを好機と、反撃に移った。
障壁に魔力を注ぐのを中断して懐からアメジストを二つ取り出し、空中に放る。
「《珠玉法―紫水晶・霹靂―二重奏》ッ!」
カッ!
鮮烈な光がアメジストから弾け、瞬く間に二条の雷閃を形成。
魔術師達めがけて、高速で飛翔する。
「な、なにッ!」
「しまッ――」
狼狽える間もなく、攻撃が魔術師達に直撃。
ビクンと大きく痙攣したかと思うと、失神した二人の魔術師はその場に倒れ伏してしまった。
しかし、これで終わったわけでは無い。
すぐ後ろに、まだ二人魔術師が控えている。
「おのれ、許さんぞッ! 《削命法―火炎》ッ!」
「《削命法―火炎》ッ!」
轟ッ!
燃えあがる炎が大地を舐めながら、こちらに接近してくる。
飛び散る火の粉が顔にかかるのを厭わず、私は急いで懐から宝石を取り出す。
(魔術の起動、間に合うかな――ッ!?)
全身に熱気を感じながら、焦りを振り切るがごとく矢継ぎ早に呪文を唱える。
「《珠玉法―翠玉・暴風―三重奏》ッ!」
空中に弾いた三つのエメラルドを中心に、巨大な風の渦が出現。
そのまま、迫り来る炎に向けて回転を速めながら突っ込んでいく。
そして――衝突。
嵐の戦鎚は唸りを上げて、炎の赤幕をぶち破る。
尚もその勢いが止まることは無き。
「うわぁああああッ」
「ぎゃあああああッ」
二人の魔術師達を絡め取って、石壁の大穴の向こう。その更に奥の奥まで吹き飛ばして行った。




