第四章27 通話ごしのハイテンション1
外へ出ると、涼しい風が出迎えた。
辺りを見回しても、敵らしき人影は見当たらない。
ひとまず安心して良さそうだが、万が一周りに敵がいる場合も考慮して、一応物陰に身を潜めた。
それからセルフィスに告げた。
「少しの間、座っていて貰ってもいいですか? あ~、でも王女を地面に座らせるというのは、果たしていいものか……」
私はポリポリと頭を搔く。
身体の状態が万全でない彼女に、立っていることを要求するのは酷な話。
だからといって近くにベンチもないから、やむを得ない選択なのだ。
「ふふ、お気遣い感謝します。でも、大丈夫ですよ?」
しかしセルフィスは二つ返事で了承すると、私の手を振りほどいて、その場に座り込んだ。
「す、すいません」
別段謝ることではないのだが、なんだか恐縮で思わずそう言ってしまった。
それから、正体不明のプレッシャーに急かされるように、ポケットから通信機を取り出して耳に当てた。
言わずもがな。
〈ディストピアス〉に潜入する前、ロディから受け取ったものである。
「もしもしロディ聞こえてる? 私だけど――」
『ハ~イ! 愛しのマイハニー☆カースちゃん! ずっと連絡待ってたんだZE!』
……。
『もしも~し? おーい、聞こえてるか? 俺だよ俺! お前のダ~リンだ!』
……。
…………。
『……すまん。ふざけて悪かった』
「わかればいいいんだよ」
私は重いため息をつきつつ答える。
流石にドン引き案件だ。
あいつのハニーになった覚えなんてないし、そもそも私は男に恋愛的な興味はない。
勝手に私を変なポジションに置かないで貰いたいものだ。
それに……
「お前がバカなこと言ったせいで、セルフィス王女がなんとも言えない表情をしてるんだけど」
流石のセルフィスも何か思うことがあるらしく、眉をへの字に曲げてこちらを見ている。
『はははっ、そいつは悪かった。殿下に謝っといてくれ』
だが、ロディは何の悪びれもなく笑い飛ばした。
横でセルフィスが聞いているのを知っておきながらこの態度。
毎度のことながら、神経が丸太並みに図太い奴である。
呆れすぎて、最早ため息をつくことすらできない。
『てことは、今お前は殿下と一緒に居るんだな? つまり――』
「うん。一応作戦は成功だよ」
『上出来だ。褒美にお前を俺の恋人にして――』
ぴっ。
間髪入れずに通信機を切った。
これ以上ロディの話には付き合いきれない。
どうせ裏で「つれない奴だぜ」とでも言っているんだろうが、知ったことか。
「あの方、お父様に言って解雇させましょうか?」
ジト目のセルフィスが何やら物騒なことを言い始めたので、「いや、アレはアレで頼りになる奴なんで!」と慌てて告げる。
なんで私が、ロディの肩なんか持たなければならないのだろうか?
自分で言っておきながら、解せない私なのであった。




