第四章24 発見 見目麗しの王女様
薄暗い階段をしばらく下ると、長い通路に出た。
大理石でできている上の神殿とは違い、この通路はどうやら土と煉瓦でできてているようだ。
その壁に、等間隔でランプが埋め込まれているお陰で、通路の随分先まで見ることができた。
しかし、薄暗い閉鎖空間に恐怖を感じるのは、人の性というもの。
背筋に張り付く怖気に思わず身震いをして、奥に向かって歩き出した。
(地下だけど、あんまりジメジメしてないな)
てっきり風通しが悪い上に、天井から地下水が垂れてきて、ずっと居れば身体からキノコが生えてきそうな空間を想像していた。
ふと、何か風の吹くような音が聞こえて、周囲を見渡す。
すると、天井に金網の張られた縦穴があった。
道理で湿気が少ないわけだ。
流石に王女の監禁場所なだけ合って、衛生面は気を遣っているらしい。
監禁というより軟禁という方が正しいだろうか?
そんなことを考えていたのだけど、後々私はとんでもない誤解をしていたと知ることになる。
薄暗い廊下を進んでいくと、やがて右側の壁が無くなって、代わりに鉄格子が現れた。
地下牢に着いたのだ。
王女がいるとしたら、この近くだろうか?
「あの~、誰かいませんか?」
場所が場所なのもあり、私は恐る恐る声を出した。
やや掠れた声が、通路の奥に吸い込まれていく。
しかし、返ってくる声はない。
(誰もいないのかな……?)
安心感と不安が混じったような感覚が、私の胸に押し寄せてくる。
私はもう一度、今度は少し大きく息を吸って聞いてみた。
「あのぉ~、誰かいませんか?」
すると今度は、数秒後に応えが返ってきた。
「……え? 女の人の、声……?」
覇気に欠けた、風鈴のように涼やかな声が奥の方から聞こえてきた。
紛れもなく、女性の声だ。
十中八九、探し求めていた王女のはずである。
急ぎ足で奥に向かうと共に、私の胸の鼓動は高まった。
〈ロストナイン帝国〉に赴く前、ロディが言っていた台詞を思い出したからだ。
――「セルフィス王女、めちゃくちゃ美人だぞ? 国中で、天使の生まれ変わりじゃないかとも噂されるほどの美貌だ」――
つまり、今から私はその天使様とご対面するわけである。
(いいのかな~、私ごときがそんな美しい御方に謁見するなんて、許されちゃうのかなぁ)
そんなことを思いながら進んだ先。
右の地下牢の隅っこに、蹲っている一人の少女を見つけた。
(……ッ!)
その少女を見た私は、思わず息を飲んだ。
予想の三〇〇倍くらい、美しすぎたからである。
年齢はおそらく私と同じ、一八前後。
腰まで伸びた髪は先っぽあたりで括られており、その色は艶やかな純白。
雪も欺く白い肌。
翠玉色の瞳は不安げに揺れ、こちらに向けられている。
しかして、その美貌を冒涜するかのように、全身の召し物は酷い有様であった。
水色のワンピースはあちこちが綻び、煤や土で穢されている。
服の破れた胸元からは、膨らみかけの胸がちらりと覗いていた。
さながら、人間に捕らえられて衰弱しきった天帝よりの使者だ。
そんな彼女の姿に気後れしてしまっていた私であったが、意を決して口を開いた。
セルフィス=ル=トリッヒ
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