第四章22 種明かし、そして激動の幕開け
《三人称視点》
リアン達は必死に一本道を走った。
遙か先を走っているであろう少女達の姿は見えない。
半ば祈るような面持ちで、リアンは進む。
やがて、一本道を照らす星明かりが急激に弱まった。
見上げれば、アーチ型のドームが天井を覆っている。
廃墟となった商店街に差し掛かったのだ。
標的は――近い。
その予感に、リアンは図らずも唾を飲み込んだ。
ひたすら商店街を進み、行き止まりが見えてくる。
果たして、追っていた二人の人物はそこにいた。
「ふふっ、ははは……!」
リアンは、勝ち誇ったように笑う。
「遂に追い詰めたぞ! 残念だったな、貴様らが逃げたこの一本道は、行き止まりなんだ! さあ、観念しろ!」
リアンは、魔術を振るう手を少女達の方へ向ける。
しかし、その絶体絶命の状況に立たされているというのに、二人の少女は一切表情を変えることなく、リアン達を見つめ返していた。
「なんだ? この状況で随分と余裕そうだな?」
「まあね、もう手遅れだからね」
金髪の少女は、にべもなく言い捨てた。
どうやら、もう逃げようと足掻くのは無駄だと悟ったらしい。
「ふっ、己の負けを潔く認めるか。流石、剣士だな」
リアンがそう褒めると、金髪少女はきょとんと頸を傾げた。
「何か勘違いしてない? 手遅れなのは、フィリア達じゃなくてお兄さん達の方だよ」
「……なに?」
訝しむように眉根をよせるリアン。
「バカを言うなッ! 貴様ら二人はこうして今追い詰めた! 万が一にも逃がすことは有り得ない!」
「本当に、二人追い詰めたの?」
「……ッ?」
その意味深な台詞に、リアンは一瞬硬直し……気付いた。気付いてしまった。
「ま、まさかッ!」
リアンは黒髪少女の方を穴が開くほどに凝視する。
ずっと、違和感を持っていた。
自我を失った〈契約奴隷〉でもないのに、まるで人形の如く、無機質な表情をする黒髪少女に。
「くっ! 《削命法―霹靂》ッ!」
たった今、閃光のように浮かんだ一つの仮説。
それを確かめるべく、リアンは雷撃の魔術を起動した。
指先から放たれた雷閃は、狙い過たず黒髪少女を射貫く。
次の瞬間、水面に揺れる月のようにその姿が歪んで消えてしまった。
「やられたッ! 光の魔術の応用、幻影か!」
リアンが、黒髪少女の正体を看破すると同時に、魔術師達の間にどよめきが走った。
「そ、そんなバカな!?」
「幻影などという高等技法を、王国の人間が使えるというのか!?」
(お、おのれぇッ!)
リアンは、憎たらしいやら悔しいやらで、顔を真っ赤にしていた。
格下だと思っていた相手に振り回されたあげく、一杯食わされたのだ。
そして、二人の侵入者を追っていたと思っていたが、実際は一人だった。
その事実が示すことは、一つしかない。
「じゃあ、本物の黒髪女はもう……」
「うん。とっくに王女様を助けたよ。さっきこの一本道を逃げてるときに、そう連絡が入った。残念だけど、王女がホントは神殿にいるって、フィリア達知ってたもんね!」
「なぁッ!?」
それこそ、リアンは開いた口が塞がらなかった。
だが、それを悔やんでいる暇はない。
リアンは、部下達の方を振り返る。
「くそっ! お前達、すぐに本物の黒髪女を探すんだ! 俺はこの憎たらしい金髪幼児体型を捕らえて、知ってることを全部吐かせる!」
「ちょっと。れでぃーに対して幼児体型とか、言って良いことと悪いことがあるでしょ。……それと、今からおにいを追っても無駄だからね?」
不服そうにリアンを睨みつけながら、金髪少女はそう告げる。
「どういうことだ?」
「それは――」
少女が何かを言いかけた瞬間、遠くで爆発音が上がった。
「な、なんだ!?」
狼狽えるリアン。
続けて彼のポケットに入っているレシーバーが震える。
それをブン捕るかのような速度でひっつかみ、耳に当てた。
『た、大変です! リアン大隊長!』
「何事だ? さっきの爆発は?」
『〈ディストピアス〉に続く正門が破られ、王国軍がなだれ込んできました!』
「な、なんだと!?」
あまりに急展開な出来事に理解が追いつかず、リアンは青ざめてしまった。




