第四章21 最後の追跡へ
《三人称視点》
「目標視認! 各部隊、一斉射ッ!」
少女達の行く手を塞ぐように展開した魔術師達の一人が、指示を飛ばす。
それに伴い、整列していた魔術師達は一斉に詠唱を開始する。
「「「「《削命法―結氷》」」」」
瞬間、魔力の光が魔術師達の手に渦巻き、氷柱を形成。
解き放たれた氷柱は路地を埋め尽くしながら、冷気の白い尾を引いて、二人めがけて肉薄する。
(ふっ、今度こそ勝ったなッ!)
二人を追いながら、己が勝利を確信したリアンはほくそ笑んだ。
先回りした魔術師達の放った攻撃と、リアン。
その間に二人の少女を捕らえた今、完全に挟み込む形となっている。
(そのまま進めば魔術の餌食、ひよって戻ればこの俺の餌食。さあ、どうする!?)
リアンは左手に持った球根を強く握りしめ、いつ敵が進行方向を変えて突っ込んできても対応できるように、詠唱の準備をする――
「まったく。ただの挟み撃ちなんて……」
しかし、自身に向かって無数の氷柱が肉薄しているというのに、一切慌てる素振りを見せず、金髪の少女はため息をつく。
「さっきも見たって」
心底呆れている、とでも言いたげに言い捨てる。
その間にも、少女達の目と鼻の先まで氷柱が迫ったその瞬間。
「よっ!」
二人の少女が斜め左にジャンプした。
「なッ!」
驚いて駆ける脚を止めてしまったリアンの前で、少女達は建物の壁に着地。
と思いきや、すかさず壁を蹴って、路地を挟んで反対側の壁に足を付ける。
その動きは軽やかで、素早く。
建物の壁の間を行ったり来たりしながら、蹴り上がって行く。
そのあまりにもトリッキーな動きに魔術師達は対応できず、放った氷柱は彼女たちの身体を鋭く掠めるに留まった。
標的を打ち損じた氷柱はリアンの横を通り過ぎて、路地の奥へと吸い込まれて行く。
「くっ! さっきから何なんだこいつらはッ!? 普段ジャングルにでも住んでいるのかよ!?」
魔術を使わずに攻撃を捌ききった?
高すぎる身体能力を見せつけられて、リアンは思わず天を仰ぎ――
「ちょっと、こっち見るな!」
そんなリアンを、遙か上に移動した少女達が見下ろしており――
金髪少女の方は、何やらスカートの裾を抑えて喚き立てている。
「パンツ見えちゃうでしょうがぁああああッ!」
品のない台詞を大声で叫びながら、建物の屋上に着地。
そのまま、視界の外へとあっという間に走り去ってしまった。
(やられたッ! 逃がしたかッ!)
リアンは地団駄を踏んで、逃げて行った方を見据える。
だが、すぐに平静を取り戻した。
(いや、大丈夫だ。彼らが逃げていった先にあるのは、長く続く細い一本道。そしてその先は、廃墟となった商店街だ)
今度こそ、追い詰めることができる。
そうリアンは確信した。
廃墟となった商店街は、巨大なアーチ状の屋根で覆われているからだ。
先程のように、上に飛んで逃げられるということはない。
(おまけに、商店街の奥は行き止まりだ。逃げ場はない!)
リアン覇気を引き締めて、魔術師達の方を振り返った。
「行くぞ! 彼らの逃げた先は廃墟となった商店街に続く一本道だ! 全員で追って退路を塞げ! 今度こそ確実に捕らえる!」
「「「「はっ!」」」」
そうだ、今度こそ〈ウリーサ〉の名誉にかけて。
そう心に言い聞かせ、リアンは部下達を引き連れて走り出す。
建物を回り込んで、少女達が逃げていったであろう一本道へと足を踏み入れた。




