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第四章19 必死の追跡

《三人称視点》

(一体、彼らの目的は何だ!? 何だと言うのだ!?)


 激流のように後方へ流れる景色を尻目に、リアンは自問する。

 彼の視線の先には、はるか前方を駆ける二人の少女の姿が。


 その速度は尋常じゃ無いほど速く、路地をくねくねと縦横無尽に走り回っている。

 そのお陰で、今の今まで何度も姿を見失いそうになった。


 先程の、敵陣に飛び込んで姿を晒すという意味不明の行動といい、気を抜けば見失いそうになる追跡劇といい。

 どうにも手玉に取られているようで、リアンは面白くない。


 王女の救出なら、秘密裏に行いたいはずだから、のこのこ敵に姿を晒すわけがない。

 かといって、おとりという可能性は、考えていなかった。

 報告があった侵入者の人数は二人であり、今追っている少女の人数と合致するからだ。


 加えて、もしおとりであるなら、魔術師達を帝国政府から引き離すように立ち回るはずだ。

 そうすれば、別の協力者が警備の薄くなった隙に悠々と帝国政府に侵入できるからである。


(だが、こいつらは……ッ!)


 リアンは、忌々しげに歯がみする。

 前を行く二人の動きは、不自然なのだ。

 路地を縦横無尽に走り回っているだけで、帝国政府から遠ざかる素振りを見せない。

 囮として立ち回っているようには、見えないのだ。


 彼女達の目的が、本当に王女の救出なのか。

 それすら今のリアンにはわからなくて、疑心暗鬼になってしまっていた。


 リアンは即座にレシーバーを耳に当て、部下達に指示を飛ばす。


「第三小隊、第五小隊は逃走方向の北西に回り込め! こちらはこのまま追い上げる!」


 見失わないように追うのがやっとなのだがな、という台詞は心の中に押しとどめた。

 大隊長が情けない姿を晒すわけにはいかないという、リアンのなけなしのプライドだ。

 

(だが、このまま見逃すつもりはない!)


 リアンはポケットに手を入れ、あるものを取り出す。

 それは、植物の球根だ。


(ふっ……万が一、敵との鬼ごっこになった場合を予想して、暗殺部隊から拝借しておいたコレが役に立ちそうだ)


 《削命法レーベン・ラオベン》は、〈契約奴隷サーヴァント・スレイヴ〉と呼ばれる、人間ないしは動物を触媒として起動する魔術法だ。

 故に、立ち位置が次々と変わる戦闘にはめっぽう向いていないのである。


 しかし、球根を魔術触媒とすることで、その弱点を克服することができるのだ。


(まあ、その分威力は《珠玉法シュムック》とやらと同程度まで落ちてしまうが、背に腹は代えられん!)


 リアンは球根を握る手に力を込め、前を行く二人の少女に指先を向ける。


「喰らえッ! 《削命法レーベン・ラオベン霹靂ブリッツ》ッ!」


 リアンの指先から紫電が飛ぶ。

 暗闇を裂くソレは、瞬く間に少女達へ肉薄。


(当たったッ!)


 リアンがそう確信した瞬間、まるでそれを読んでいたかのように、金髪の少女が動いた。

 走る速度を緩めぬまま、身体を捻って一八〇度回転。

 

「これ、返すね!」


 特上の笑顔でそんなことを言って――次の瞬間、腰にいた剣を抜いて一閃。

 野球のボールをバットで打ち返すがごとく、雷閃を弾き返した。


「なにッ!」


 リアンは泡を食って足を止め、防御呪文を唱える。


「れ、《削命法レーベン・ラオベン障壁シールド》ォッ!」


 跳ね返された雷閃に撃たれるギリギリで、魔術障壁が展開される。


(あ、危なかった……ッ!)


 障壁の外で紫電がバチバチと弾けるのを見ながら、リアンは脂汗を垂らす。


(くそッ! この俺ともあろう者が、あんな奴らに……ッ!)


 手玉に取られている。

 その事実を再度認識し、リアンは怒りの余り身を打ち振るわせる。


(だが、このままでは済まさんぞ! 追い込んで挟み撃ちにしてやる!)


 取り乱しかけていた感情を抑え、リアンは再び二人を追って駆け出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フィリアちゃんの無鉄砲さがいい感じに敵を攪乱させているの面白過ぎるでしょ
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