第四章17 最良の選択とは?
――しめた。
二人の話を聞いていた私は、思わずほくそ笑んだ。
思いがけず、王女監禁場所の確定情報が入った。
これで、行くべき場所は確定した。
あとは向かうだけなのだが……
(問題は、まだあるんだよね……)
私は小さく嘆息した。
敵勢力の殆どが、〈ロストナイン帝国政府〉近傍に集結するというのは、願ってもみなかったチャンスだ。
この機に乗じて、一直線にセルフィス王女の救出へ向かいたい。
そう考えているのだけれど……果たしてそう上手く行くだろうか?
(殆どの勢力は帝国政府に集まるけど、一部は〈ネグスト神殿〉を護っているから、悠々と正面突破をすることはできない。それに……王女を連れて神殿から出てきた時に見つかったら、もっと厄介だよね。王女はたぶん戦闘なんてできないだろうし……王女を守りながら敵と戦うっていうのは、相当難易度が高い)
私は、冷静に状況を分析する。
(一方で、王女が逃がされてしまったことを、敵側が知る必要がある。今回の王女救出計画は、間髪入れずに行われる〈ウリーサ〉への奇襲計画に繋がっているんだ)
この奇襲作戦は、セルフィス王女の奪還に伴い、〈ウリーサ〉の指揮系統が混乱している隙に討ち入るというものである。
敵側がセルフィス王女を奪還されたことに気付かなければ、混乱は生まれない。
かといって、私が王女を救出した時点で発見されれば、王女を守りながら敵と抗戦しなくてはいけないのだ。
(これは……参ったなぁ)
取るべき選択肢は、おそらく“救出したセルフィス王女を守りながら魔術師達と闘い、混乱を起こすこと”だ。
それが、今考えつく最良の選択である。
(仕方ない。神殿に入って王女を救出した後、敵に発見されれば良し。もし発見されないなら、わざと敵に見つかって、逃げ回るしかないかも)
どのみち、ロディ達が討ち入りを始めれば、〈ウリーサ〉の注意はそちらに向かざるを得ない。
僅かな時間、王女を連れて逃げ回ればいいはずだ。
(まあ、その僅かな時間でも攻撃を捌ききれる自信は無いんだけどさ……)
私は思わず、がくりと項垂れてため息をつく。
その拍子に、懐から宝石が一つぽとりと落ちた。
(あ、落ちちゃった)
身をかがめて宝石を拾い上げる。
その宝石――琥珀は、夜空の星明かりに照らされて山吹色に淡い光を放っていた。
その琥珀を懐にしまう前に、少しの間指の間で転がして、煌めきを見ていると。
(……! そうだッ!)
ぴこりん☆と閃いた。
この方法なら、王女を守りながら戦う負担の軽減・王女の救出を〈ウリーサ〉に知らせて混乱を招く。その二つの条件を難なく満たせる。
「ねぇ、フィリア。ちょっと耳貸して?」
私は、側にいるフィリアに耳打ちする。
「うん? 何?」
「実はお願いがあって……、――」
△▼△▼△▼
「――いいよ。その役目、フィリアが引き受けた」
フィリアは薄い胸を張って、そう言った。
「ありがとう。少し危険な役目を押しつけちゃうけど、無理はしないでね」
「大丈夫! おにいこそ、気をつけて」
「うん」
力強く頷き返し、例の宝石を空中に投げた。
(さて、ぼちぼち始めようか)




