第四章16 暴かれた居場所
「――ふ~ん。そういうこと……」
ひとしきり話すと、フィリアは半信半疑といった様子で、眉根をよせた。
話の内容が、何やら気にくわないらしい。
まあ、なんとなく予測していた反応だ。
「疑う気持ちはわかるよ。テレサさんは敵だし。セルフィス王女が、本当に〈ネグスト神殿〉にいるかもわからない。正直いろいろ胡散臭いけど、私は直感で信じてみることにした。だから悪いけどフィリアも……」
「別に疑ってない。ただフィリアの知らないところで、しれっと他の女性に会ってたってことが、気に入らないんだよ」
「……へ?」
私は思わず気の抜けた声を漏らしてしまった。
つまり、先程からフィリアが難しい顔をしていたのは……テレサが言ったことの真偽を探っているというわけではなく。
「単に、ヤキモチ焼いてるだけ?」
「悪かったね、お餅焼いてて」
ぷくっ~っと頬を膨らましてふて腐れている姿は、まさに焼きたてのお餅のようだ。
「ていうか私、一応今は《女》の状態なんだけど? その嫉妬って、“自分が好きな異性が知らぬ間に他の人と会ってる”っていうシチュエーションでしか、起こらないと思うんだけど……」
「細かいことは気にしなくていいんだよ。フィリアにとって、おにいはおにい。そう前にも言ったでしょ? 男とか女とか関係なく、おにいはフィリアのモノなの!」
「相変わらず、どこぞのガキ大将が言いそうなことを、平然と言ってのけますね貴方は……」
まあ、それでこそフィリアだから、そのブレなさが心地よかったりするのだけれど。
特に、この不完全な身体で、自分の存在が何となく揺らぎそうな感じがする、今の状況では。
「それはそれとして。フィリアは、〈ネグスト神殿〉へ行くこと自体には、賛成ってことでいいんだね?」
「う~ん、賛成でも反対でもない。おにいの決定に従うよ。フィリア馬鹿だから、難しいことよくわかんないし」
フィリアが私の決定に従うというのなら、目的は決まりだ。
一直線に〈ネグスト神殿〉を目指す。
テレサの反応的に、罠である可能性は低い。そう踏んでいるけれど、〈ロストナイン帝国政府〉の奴隷収容施設にいないとも限らないというのが現状の判断だ。
(とりあえず、ネグスト神殿〉を真っ先に調べよう。アタリなら王女を救出して、ロディに連絡を付ける。ハズレだった場合は……かなり大変だけど、帝国政府に探りを入れるしかないか)
目星を付け、行動を開始しようとしたそのとき。
眼下の路地から、人の声が響いてきた。
(何だろう……?)
屋上から身を乗り出して、確認する。
眼下には、〈ウリーサ〉の魔術師が二人。おそらく、先程撒いたのとは別の部隊の者だろう。
彼らの勢力の大きさには、うんざりしてしまう。
その魔術師二人が、何やら切羽詰まった様子で、何やら話していた。
聞き耳をそばだてれば、なんとか聞き取れそうだ。
息を殺して、じっと二人の話に耳を傾けた。
「いたか?」
「いや、こっちはダメだった。くそっ! 逃げ足の速い奴等め!」
「落ち着け。奴らがここに侵入してきたのは、何らかの目的があってのことだろう?」
「目的?」
「ああ、そうさ。王国の連中だってマヌケばかりじゃない。地力で劣るというのに、わざわざ帝国の総本山まで乗り込んでくるものか」
「そうか。だが、一体何のために……?」
「あくまで予想だが、我々が匿っている王女の奪還が目的なのではないかと踏んでいる」
げ。バレてるし……
私は心の中で嘆いた。
流石に頭がキレる連中だ。
内心では辟易しながらも、話の続きを聞く。
「なるほど! 確かにそれが成功すれば、こちらの優位は崩れかねない。奴らが少数部隊を送り込んでくるのも、納得というものだ」
「ああ、そうだ。だからこそ……〈帝国政府〉に辿り着くまでの全てのルートに、兵を配置するのだ。何としても奴等を捉える」
「ちょっと待て。監禁しているのは、〈ネグスト神殿〉だぞ。何故そこに兵を置かない?」
「少しは頭を使え。おつむのマトモな人間が、神殿などという神聖な場所に人質を監禁している、なんて馬鹿げた予想をすると思うか? 普通は、帝国政府の地下にある奴隷収容施設に目星を付けているはずだ。」
「つまり、神殿の方はノーマークと?」
「ああ。だが……そうだな。奴らが王女の監禁場所の情報を得ている可能性も考慮して……神殿にも少数の兵を配置するとしよう」
「わかった。全員にその旨を通達する」
話が終わると、内一人は何やら通信機のようなものを耳に当て、ぼそぼそと話し始めた。




