第四章15 危機脱出の一手
「おにい、何する気?」
「まあ見てなよって……それとフィリア、目を瞑ってた方が良いよ」
フィリアの細腕を掴んだまま、そっと耳打ちする。
「? それってどういうこと?」
眉根をよせて聞いてくるフィリアに、にやりと笑って見せ――
「おいテメェら、何をこそこそ話してんだ?」
「言っておくが、今更この状況から逃げ出そうったって、そうは行かないぜ? 貴様等の周りは、完全に囲っているのだからな!」
自分たちの勝ちを信じて疑わない魔術師達。
そんな滑稽極まりない彼らの方を向いて、私は淡々と告げた。
「本当に、逃げ道を全部塞いでいる気なんですか?」
「……何が言いたい?」
訝しむように私の方を注視してくる、魔術師達。
彼ら全員の注意が私一点に向いたと悟った瞬間、私は宝石の一つを頭上に放った。
当然、何を仕掛けてくるのか目を見開いて見守っていた魔術師達の視線は、投げた宝石に釘付けになっている。
それでいい。計画通りだ。
「《珠玉法―琥珀・光輝》ッ!」
猛烈な光が私の頭上で弾けた。
光の魔術で、閃光を焚いたのだ。
激しく発光する光球が辺りを昼間のように照らす。
その光球を直視してしまった魔術師達が、無事で済むはずも無く――
「ま、眩しいッ!」
「目がぁ、目がぁッ!」
皆一様に目を押さえて悶絶し、その場にうずくまる。
しばらくは目が眩んで、まともに動けないはずだ。
「さて、逃げようか」
私は、もう一つの宝石を真下に置いて、呪文を唱える。
「《珠玉法―翠玉・暴風》」
それに応じてエメラルドが淡く輝き、突風が生じる。
真下から突き上げる暴風が、私達の身体を上空に飛ばした。
「ちょ、ちょっとおにい! 下から風起こすのは無し! スカートがめくれて……ッ! ひゃあッ!?」
フィリアは慌ててスカートの裾を抑えるが、その拍子にバランスを崩して突風のエレベーターから落ちかける。
そんなフィリアの腕を強く掴み直した。
「暴れないで。体勢崩したら、地面まで真っ逆さまだよ?」
「そ、そんなこと言ったって、今パンツ丸見えなんだから! おにいはズボンだから関係ないかも知れないけど、フィリアはぁッ!」
きゃんきゃん喚き立てるフィリアに、「どうせ誰も見てないよ」と答える。
下に居る魔術師は目が眩んでいるせいで、ラッキースケベな展開も叶わないのだ。
上を見れば女の子のパンツがあるのに、見ることができないというのは、男としては発狂モノだろう。
アンラッキーな魔術師達を置き去りに、私達は近くの建物の屋上へと降り立った。
下を見下ろせば、相変わらず悶えている魔術師達の姿が。
まだ視力が完全には戻っていないらしい。この隙にさっさとここを離れるとしよう。
「フィリア、行くよ」
「う、うん」
私はフィリアを連れ、そそくさとその場を後にした。
△▼△▼△▼
「それで、これからどうするの?」
建物の屋根から屋根へ飛び移って移動している最中、後ろから付いてくるフィリアが聞いてきた。
「どうするって……そりゃあ追っ手も撒いたし、〈ネグスト神殿〉に向かうんだよ?」
「〈ネグスト神殿〉?」
フィリアは、小首を傾げる。
「王女様が囚われてるのって、帝国政府の地下なんじゃないの?」
ああ、そうか。
そういえばまだ、テレサと出会って話したことを、フィリアに伝えていなかった。
追っ手を振り切るのに必死で、すっかり忘れていた。
私は足を止め、フィリアの方を振り返る。
「今からちょっと大事な話するけど、よく聞いてね」
「うんわかったよ。右耳から入って左耳から抜けなければだけど――」
「よ く 聞 い て て よ ? 大事な話だから」
「……うん。わかったから、目がマジなのやめて。怖い……」
萎縮するフィリアに構わず釘を刺し、私は先程テレサから聞いたことを告げた。




