第四章9 フィリアはどこに?
大通りに出て、フィリアの姿を探す。
「どこ行ったのかなぁ」
大勢の喧噪が渦巻く中、フィリアを探す。
ジュースを飲みに行ったという目的がわかっているから、多少の見当が付くとはいえ、この人混みをかき分けて見つけるのは難しい。
人々の間を縫い、ジュースの売っている商店を見つけては、片っ端から見て回る。
だが、どこにもフィリアの姿はない。
(ッ! まさか……!)
私の中で一つの嫌な仮説が浮かび、たちまち額から気持ち悪い汗が噴き出す。
――「貴方の素敵な妹さんが門番を倒したことなら、ワタクシ達の方にとっくに知れています。今、ワタクシの部下が妹さんと貴方を、血眼になって探していることでしょう」――
数刻前テレサに言われた台詞が、脳裏にフラッシュバックする。
もしそうなら、フィリアが〈ウリーサ〉の連中に見つかり、連れ去られた可能性は多いにある。
あるいは、抵抗空しく殺された……とか。
(いや、そんなことないッ!)
ブンブンと頭を振って、最悪な予感を振り落とそうとする。
〈ウリーサ〉の魔術師達は外道で残忍だ。
フィリアを既に殺していないとも限らない。
けれど、フィリアはそれなりに強い。
いくら〈ウリーサ〉の魔術師達が強くとも、フィリアがそう簡単にやられるとは考えられない。
少なくとも、何かしらの抵抗は見せるはずだ。
つまるところ、フィリアが〈ウリーサ〉の奴らに見つかったとすれば、その場所で戦闘になる可能性が高いのだ。
今までに戦闘らしき音は聞いていないことから考えるに、まだ見つかっていないのかも知れない。
(くっ。どのみち、フィリアと離れたのはマズかったかな)
今更後悔したところでどうしようもないのだが、そう思わずにはいられない。
せめて、フィリアが無事でいてくれればいいんだけど。
そんなことを考えていると。
ドンッ!
何者かに背中を強く押されて、危うく転びそうになる。
「うわっ……とっと!」
急いで体勢を立て直し、後ろを振り返ってみれば。
「おっす、おにい!」
片手に食べかけのフルーツタルトを持ち、右手でサムズアップしているフィリアがいた。
とりあえず無事が確認できたところで、私は小さく安堵の息を吐いた。
「よかった。フィリアのこと、大分探したんだよ」
「それ、フィリアの台詞だから」
フィリアは不満げに頬を膨らまして、タルトを頬張る。
食べながら、「おにい今までどこに行ってたの?」と若干キレ気味で聞いてきた。
そういえば、フィリアを置いて勝手に路地裏に逃げてたんだった。
「い、いや……まあ、ほらアレだよ、アレ。帝国政府までの近道を、その辺の人達に聞いて回ってたんだよ」
「え? 出かける前、ロディさんから地図を受け取ってたのを見たけど……それじゃわからなかったの?」
「……。(す、鋭い)」
咄嗟に言った出任せが通用しないとは。
こうなったら。
「フィリアこそどこ行ってたのさ! ジュース買いに行くって言ってたのに、ジュース売ってるお店にいなかったよ!」
〈秘技☆話題を逸らす〉ここに発動である。
「だって、ジュースより前にフルーツタルト見つけちゃったら、そっちに流れちゃうでしょ?」
フィリアは、自慢げに食べかけのフルーツタルトを見せつけてくる。
それから、実に幸せそうにタルトを囓った。
ジュース屋に行くと言ったなら、ジュース屋にいて欲しいが……まあ、今回は大目に見るとしよう。
何せ、こっちにも非があるのだから。
「それよりフィリア、ちょっと話があるんだけど」
「ん~、何?」
フルーツタルトを食べるのを止め、首を傾げるフィリア。
私は、満を持して先程路地裏で得た情報を、話そうとした――そのときであった。




