第四章8 定まった目的
(なんか……最後まで真意の読めない人だったな)
テレサが去って行った後で、一人残された私は小さくため息をついた。
結局、一方的に助言をくれただけで、行ってしまった。
(それにしても……セルフィス王女の本当の居場所、か)
私は地図を広げて、先程言われた〈ネグスト神殿〉を探す。
しばらく指でなぞりながら地図を見ていると、それらしきものを見つけた。
縮尺が正しければ、面積はおそらく帝国政府の四分の一くらい。
思ったより小さいらしく、見つけるのに少々手間取ってしまった。
「うわぁ……マジ?」
私はこの場所からの位置関係を把握して、げんなりと頭を垂れる。
何せ、その〈ネグスト神殿〉の場所は――
「〈ロストナイン帝国政府〉と正反対の場所じゃん……」
半ば絶望して、私はぼやいた。
この路地から見て、帝国政府は南西に一・二キロ進んだ場所にある。そして、〈ネグスト神殿〉は、北東に二キロ進んだ場所にあるのだ。
二つの場所を調べるには、三・二キロもの距離を移動しなければならないのである。
テレサの助言が罠である可能性も否めない以上、迂闊に〈ネグスト神殿〉が本命だとは決めつけられない。
それ故に、帝国政府と神殿。その両方の地下を調べるのが手っ取り早いのだけど……
(……かなり厳しいよなぁ)
テレサ曰く、〈ウリーサ〉は既に私とフィリアの侵入を察知し、動き出しているらしい。
そのような状況下で、彼らに見つからずに三・二キロ離れた〈ロストナイン帝国政府〉と〈ネグスト神殿〉の地下を探るのは、非常に困難だ。
「まったく……助言になってないですよ」
王女の監禁場所の候補が増えた分、より厄介になった。
せめて、テレサの助言に確証が持てるといいんだけど……
(そう言えば、別れぎわなんか意味深なこと言ってたな)
私はふと、テレサの言葉を思い出す。
――「今申し上げたとおり、信じるかどうかはお任せしますが……部下ではなく、このワタクシが直接助言を伝えに来た意味を、よく考えてくださいませ」――
部下ではなく、敵のトップであるテレサ自らが、お供も引き連れず私の前に現れた意味?
(何か、誰かに聞かれてはマズイ事情がある……?)
思えば、彼女が現れたのは私が路地裏に入ってからのことだ。
本人はおくびにも出さなかったが、誰にも見つからず、かつ誰にも聞かれない場所で私に合うことを目的としていた……それならば、辻褄が合う。
(部下に聞かれてはマズイ。ということは、テレサの独断行動?)
そうであれば彼女の言った通り、これは敵の罠ではないということになる。
もちろん、そう決めつけるのは早計ではあるが。
少なくとも、テレサの言い分が全く信用できないものではない、ということはわかった。
(てことは、セルフィス王女の監禁されている場所は、〈ネグスト神殿〉の地下である可能性が高いな)
ならば、テレサの言葉を信用するまでだ。
どのみち綱渡りな今回の作戦。標的を〈ネグスト神殿〉に変えて、行動することに決めた。
彼女の言ったことがもしハッタリであれば、当初の目的通り、標的を〈ロストナイン帝国政府〉に戻すまでだ。
「まあでも、テレサさんの言ったことが真実であれば、一番いいんだけど」
そう呟いて、私は踵を返す。
敵に見つかる前にジュースを堪能中であろうフィリアと合流して、〈ネグスト神殿〉へ向かう。
そう目的を改め、私は急ぎ足で大通りに向かった。




