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第四章3 足を引っ張らないでもらえます?

「おにい?」

「……えっ!?」


 何やら、聞き馴染みはあるが、ここにいるはずのない人物の声が聞こえて、私は首がちぎれるんじゃないかという勢いで後ろを振り返る。


 案の定。

 そこには、本来ここにいるわけがない人物の姿があった。

 ゆるりと伸びた金髪が夜風になびき、茶目っ気溢れるアイスブルーの大きな瞳がこちらを見上げている。

 その人物の正体とは……


「ふぃ、フィリア!?」


 私は驚いて、いつの間にかそこにいたフィリアから距離を取った。


「どうしてこんなところに!?」

「おにいの後を付けてきたんだよ」


 なんの悪びれもなく、そう言ってのけるフィリア。

 

「私以外はみんな雑木林で待機ってこと、知ってるでしょ?」

「もっちのろん! でも、あんな薄暗いとこ怖いから、抜け出してきた」

「はぁ~」


 私は、おもいっきりため息をついた。

 

「なに、そんな深いため息をついて。フィリアが来ると困るの?」

「いや? 待機命令を無視してまで愛する兄(女体化)に会いに来てくれるなんて、感心してつい吐息が漏れただけだよ」

「ふっふ~ん、いい妹を持ったでしょ? でも、感心してるならもっと嬉しそうな顔して欲しいな!」

 

 感心してるわけないだろ、このアホたれが。

 存在そのものがKYであるフィリアを引き連れて作戦を遂行するのは、非常に困難であること請け合いだ。

 フィリアの参戦によって、元々困難なミッションの成功確率が更に低くなった。


(やれやれ。剣術がそこそこできる以外は、ただの癒やし系マスコットなんだよね)


 常時元気いっぱいのド天然生意気妹が、隠密作戦なんて絶対無理だ。

 この街に入る時点で、門番に気付かれずに〈ディストピアス〉の門をくぐれたとは、到底思えない――


(ん? 待てよ……?)


 そうだ。よくよく考えれば、魔術を使えないフィリアが、門番に気付かれずにこの街に侵入できたというのには疑問が残る。

 

「ねえ、フィリア」

「うん? 何?」

「どうやって監視の目を潜って、この街に入ったの? 門には門番がいたはずだけど」

「そういえばいたね。ぶっ飛ばしたけど」

「……はい?」


 私は、自分の耳を疑った。

 今、「ぶっ飛ばした」って言わなかった?


 いやいやいや、そんなことあるわけがない。

 今回の作戦の利は、奇襲にあるということはフィリアもわかっているはずだ。セルフィス王女を救出して雑木林に控える本隊に連絡するまで、私は絶対に敵に見つかってはいけないのである。

 

 もしフィリアが言うことが事実であれば、これは由々しき事態だ。

 ぶっ飛ばされた門番が発見されれば、侵入者がいることが直ちに〈ウリーサ〉に報告され、厳戒態勢に入るはず。

 そうなれば、作戦の成功確率は無に等しくなる。

 ――というか、0パーセントを振り切って、マイナスパーセントな気がする。


「ぶっ飛ばしたって、本当にぶっ飛ばしたの? 冗談とか誇張表現じゃなくて?」


 頼む後者であってくれ!

 そう願いながら、フィリアの返答を待つ。

 さあ、答えは……?


「言葉通りの意味だよ? 門番の人が通してくれなくて、力尽くで通ろうとしたらいきなり斬りかかってきたから、返り討ちにした」


 ――嗚呼ああ、終わった。

 私は頭を抱えてその場にうずくまる。

 いろいろとこれからのことが思いやられて、フィリアを怒る気すら湧かない。


「そんなことより、喉渇いたからジュース買ってくるね」


 私の心中など露知らず、脳天気なフィリアは近くの商店に向かってスキップしていく。

 とりあえず、フィリアにはテキトーに買い物させつつ、私一人で王女救出作戦を頑張った方がいいのではなかろうか?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この段階でフィリアちゃんに対するヘイトが鰻昇りになっているので、心配になってきます… サブタイトル以上の重大さになっている気が。 あとから重大な伏線が~って感じなんでしょうけど、その…
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