第三章6 身体の異変
「じゃあ、王女の救出はお前に任せるが、いいな?」
ひとしきり説教が終わった後、問うてきたレイシアに頷き返す。
「囚われている場所とかは、わからないんでしょ?」
「正確な場所はわからない。さっき言ったように、ロストナイン帝国政府の地下にある、奴隷収容施設にいると考えるのが妥当だが……確証はないな」
「それって、仮に〈ウリーサ〉に見つかることなく奴隷収容所まで行けたとしても、王女様がいなかったらどうするの?」
「その時は、手当たり次第探すのだな」
「いや鬼ですか!?」
思わず口を突いて出てしまった。打算的にも程がある。
「あまり本気に受け取るな。半分は冗談だ。王女の身柄がどうしても確認できなければ、引き上げてこい」
「ただ、なるべく粘った方がいいんですよね?」
「無論だ」
人助けには興味が無いと言っていたレイシアだが、即答した。
「一応王女だからな。何としても取り返す必要はある。それに、王女の救出が成功しなければ、〈ウリーサ〉への奇襲は成功しないからな」
「それくらいは承知の上です」
美少女に会えるのなら、たとえ火の中水の中だ。
まあ、僕の周りには既に美少女がいるんだけど。
「よし、これで決まりだな」
「いや、ちょっと待て」
一通りの概要が決まり、締め括ろうとしたレイシアに、ロディが待ったをかける。
「なんだ? 何か言いたいことでも?」
「まあな。割と大事なことだ」
そう言って、ロディは僕の方を見た。
「王女殿下を助けに行くとき、変装の一つくらいしていった方がいいんじゃねぇか? 俺達の顔は、あいつらに知れているからな」
そう言われれば、たしかに。
前回の戦闘の時、テレサ、カモミールを含めた大多数の魔術師達と戦ったのだ。僕の顔は敵側に知れ渡っていることだろう。
敵組織の最奥で、僕の正体がバレて、
『お前、あのときの騎士だな!?』
なんて言われちゃったらどうしよう?
今のうちにサインを書く練習でもしておこうか。
冗談はさておき、ロディの言うことはごもっともである。
「じゃあ、付け髭とかでいいかな?」
「いや、それだと隠せるのは口元だけだし……お前の顔に、髭は絶望的なほど似合わなそうだからな。変装したらただの変態になって、余計怪しまれると思うぜ?」
「じゃあ、どうすればいい?」
「そうだな……」
ロディはしばらく考え込むように目を伏せ、やがて何かを閃いたらしくポンと手を叩いた。
「女装するのはどうだ?」
「いや、それこそただの変態じゃないか!?」
「そうか? お前の顔なら、付け髭より違和感ないと思うぞ?」
「違和感の問題じゃないよ! どうして僕が《女》なんかに――」
そもそも、念願の男になれたのに、女装するなんて嫌だ!
そう続けようとしたが、それを言う前に何やら異変が起きた。
突如、身体が熱に浮かされたように熱くなり、体中から謎の煙が噴き出して目の前を覆う。
「な、何これ?」
ぎょっとしたのも束の間、身体の異変はすぐに収まり……煙が晴れる。
そこには、いつかの時のように驚きの表情を顔に貼り付け、硬直している三人の姿があった。
「え、えっと……おにい、だよね?」
おそるおそるといった風体で、フィリアが話しかけてくる。
「何言ってるの? 僕は僕だよ……ってあれ? なんか僕、声高くない?」
おかしいな?
そう思って、不意に頭を搔く。すると、妙にさらさらとした長髪が指に絡まった。
(あれ、こんなに僕の髪って細かったっけ? なんか……)
転生前に戻ったみたい。
「おい、カース。お前、そんな特技があったのか!?」
突如、嬉々として声を上げるロディ。
「はい? 特技?」
「とぼけんなよ。変装が特技なんだろ?」
「……?」
ロディの言っている意味がわからず、僕は小首を傾げるばかりで。
「……違うのか?」
その様子を見て取ったロディは怪訝そうに眉をひそめる。それから、長テーブルの引き出しをがさごそと漁り、手鏡を取り出した。
「ほら。自分の顔をよく見て見ろ」
「う、うん」
ロディは、手鏡の鏡面を僕の方に向ける。
そこに映る自分の顔を見て……
「え、え? えぇえええええええええ!?」
僕は、叫び声を上げてしまった。
いつか風呂場で見た、僕だと信じたくない僕が、鏡の向こうにいる。
それは、つまり――




