表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/304

第三章4 作戦の概要

「話は済んだようだな」


 頃合いを見て、ロディは口を開いた。


「ここまでの話をまとめると、まず〈ウリーサ〉からこの国を護るのではなく、あくまで隙を突いて攻め入る方向で行くってことだな。その「隙」というのは、セルフィス王女を救い出し、それに気付いた 〈ウリーサ〉の連中が動揺した瞬間。その時を狙って全ての戦力を投入し、奴らを叩くって寸法だ。テレサとカモ野郎の二人は、強さの次元が違いすぎるから、俺達四人全員でかかる。そういうことでいいんだよな?」

「ああ、そういうことだ」


 レイシアは頷き、再び僕の方を向いた。


「作戦の是非は、貴様がどれほどの練度で魔術を習得できるかにかかっている。わかってるな?」

「わかっているつもりです。できるかはわからないけど……」

「つべこべ言わずに、やればいいんだ」

「……はい」


 有無を言わせぬレイシアに気圧され、首肯する。

 けれど、期待に応えないつもりはない。三日間不眠とか嫌すぎるけれど、プライドの高いレイシアさんが僕に期待しているのだ。


 古今東西、“据え膳食わぬは男の恥”と言う。

 ここは是が非でも、やるしかあるまい。


「ところでさ」


 終始頬杖をついて話を聞いていたフィリアが、不意に口を挟んだ。


「そのセルフィスさんを助けるのは、誰がやるの?」

「それは、腕利きの部下に任せるつもりだが……いや、待てよ」


 レイシアは答えるのを止め、考え込むように、人差し指を自身の細顎に添える。

 しばらく険しい顔で無言を貫いた後、ゆっくりと口を開いた。


「よくよく考えれば、王女殿下を救い出すことそのものが、最も難易度の高い課題では無いか? 〈ウリーサ〉の連中に気付かれないようにしつつ、どこに囚われているかもわからない王女を救出するなど、 難儀にも程があるぞ。一応〈ウリーサ〉が帝国直属の魔術結社であるからして、帝国政府直下にあると いう、奴隷収容施設にいるだろうという大体の予想は付くが……それも確定ではないからな」

「「「確かに」」」


 僕達三人の声が重なる。

 〈ウリーサ〉に囚われてしまった少女の行方は依然知れない。そんな彼女を救出するために、敵の渦中に飛び込んで、誰にも気付かれずに彼女を見つけ、その上で助け出すなんて、並大抵の人間ができることではない。


 それこそ、僕達四人の内誰か……いや、フィリアは隠密おんみつ行動とか向いて無さそうだから、とりあえず除外しておこう。

 兎に角ここにいる精鋭で無ければ、務まらないはずだ。


「じゃあ、どうするの?」


 無邪気なフィリアの問いに、ロディとレイシアは考え込むように目を伏せ、


(どうすればいいんだろうか?)


 僕もまた、思案にふける。

 そもそも、僕達四人はテレサとカモミール、二人の強敵を相手にすることに全力を尽くさねばならない。そうまでしてやっと勝てる見込みがあるという程度だ。王女の救出に人員を割くわけにはいかない。


(かといって、僕達の内の誰かでなければ、救出が成功する可能性は低いし……)


 隠密作戦を成功させる気力。何が起きても動じない胆力。そして、万が一救出が失敗し、敵に見つかった場合に、対抗し得る戦闘力。

 それらを併せ持つのは、レイシア、ロディ、僕……それと一応フィリアの四人だけだ。

 八方塞がりな状況に、僕は頭を抱え――


「……一つだけ、提案がある」


 沈黙を破ってぼそりと呟いたのは、レイシアだった。


「本当ですか?」

「ああ」


 顔を上げた僕を、レイシアが見つめ返す。

 それから、とつとつと語り出した。


「と言っても、かなり無謀な案だがな。まず王女を見つけ出して助けるのは、この四人の内の誰かで確定だ。借りにそいつをAとしよう。まず、Aが上手く敵の本拠地に潜り込んで救出が成功したと仮定する。王女と共に安全な場所に隠れて〈ウリーサ〉の動向を探る。奴らが王女を連れ去られたことに気付けば、少なからず騒ぎが起こるはずだ。それを察知して、Aは即座に待機中の我々本隊に連絡。王女を安全な所に隠して、そのまま本隊に合流。共に敵を奇襲する」

「つまるところ、Aは殿下の救出とテレサ達との闘い。その二つをまかなわなければならないってことだな?」

「そういうことだ。理解が早くて助かる」


 かいつまんで話したロディに、レイシアは頷き返す。


「なんというか、アレだな。流石、草食系少年に三日間不眠不休の魔術特訓を要求する、パワハラ女部長の見立てに恥じない脳筋意見だな?」

「ふんっ。脳筋に脳筋と言われる筋合いは無いわ」


 レイシアは、鋭く鼻を鳴らしてロディをあしらう。


「それで、貴様らは余の意見に賛成か反対か、どっちなのだ。反対なら、より合理的な提案も添えて欲しいものだな」


 僕達はしばらく目線を交わし合う。だが、誰一人として何か良い提案を口にしようとする者はいなかった。


「……僕は、まあ反対じゃないです」


 たぶんこれ以上は考えても無駄だろうと悟って、僕は賛成することにした。


「おにいが賛成するなら、フィリアもそうする!」


 フィリアも勢いよく右手を挙げ、レイシアの意見に一票を入れた。


「ったく。もう多数決で決まりじゃねぇか。かくいう俺も、反対の意見は持ち合わせてねぇんだが」


 ロディは、やれやれと言うように頭を搔き、「その頭でっかちな意見にのってやるよ」と言った。

 これで、計画の内容は殆ど決まった。あと残されているのは……誰が、人物Aを担当するかだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今後物語の中枢に携わるメインキャラって雰囲気が好きです。 [一言] 今更ですけどタイトル、『生』と『性』がかかってんのかぁー!!! これ程に作品の特徴を表しているタイトルはないっ!!!!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ