第三章3 鬼教官、爆☆誕
「僕が切り札って、一体どういうことです?」
流石に気にならないわけがなくて、そう問い返す。
一体、レイシアは何を考えているのか?
「以前、貴様とテレサが戦っているのを、当然余も見ていたわけだが……常に圧されながらも、短時間闘えていた。本来、近接戦闘しかできない騎士が、魔術師を相手取るというのは圧倒的に不利なはずなのだ。だが、お前は戦えていた」
「はぁ……」
正直、僕は少し驚いていた。
あのプライドの塊であるレイシアが、他人の実力を素直に認めるとは。やはり、絶対に丸くなっている。
うん。そうとしか考えられない!
だが、その変化に気付いているのかいないのか。
レイシアは何事もなかったかのように、淡々と説明を続ける。
「貴様が戦っている間、どうして戦えていたのかずっと疑問だった。だが……この一週間の内で改めて考えなおして、ある答えにたどり着いた」
「ある答え、ですか」
僕は、レイシアの言葉を反芻する。
「ああ、そうだ。貴様はあのとき、魔術の属性攻撃に対して、同じ属性攻撃で反撃していた。テレサが放った氷の魔術を剣に纏わせてヤツに殴りかかったり、炎の魔術を行使した余波で燃えさかる炎を使って、水の魔術に対抗していた」
「そう言われれば……確かにそんな気もしますけど」
それがなんだって言うんです?
それを聞く前に、レイシアは懐から何かを取り出し、机の上に放った。
カラカラと音を立てて机の上を転がったそれらは……ルビー、エメラルド、そしてアメジスト――《珠玉法》で彼女が触媒として使用する、宝石であった。
「えっと、なんで宝石を?」
話の前後が読めず、聞き返した僕に、レイシアはとんでもないことを告げた。
「貴様に魔術を教える」
「……え、え? えぇええええええええええええッ!?」
予期せぬ展開に、僕はたまらず素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。
「ああ、なるほどな。悪くないアイデアかもしれんぜ?」
「おにいが魔術を使うの? すごい!」
黙って動向を見守っていたロディとフィリアが口を挟む。
何故か、僕と違って二人とも割とノリノリなのが気になるが……
(冷静に考えて、魔術の習得とか絶対大変じゃない? めちゃくちゃ厳しい試練が待ってたり……)
戦々恐々と、不安を募らせる僕であった。
「まあ案ずるな。魔術の習得事態は、そこまで難しくない」
レイシアは僕の心中を察したかのように、そう告げる。
「そうなんですか。良かった」
僕はほっと胸をなで下ろし……
「ああ。三日間ほど休まず訓練を積めば、十分初歩的な魔術くらいは使えるようになるはずだ」
「え? ……はい?」
――なんか、嫌な単語が入っていた。
「あの、今「休まずに」って言いました?」
「ああ、言ったが」
「それって、ぶっ続けってことですか?」
「無論だ」
――とてつもなく嫌な予感がする。
「ひょっとして、睡眠時間も……」
「あるわけないだろう。阿呆か貴様は」
さも当然というように、レイシアは言い張り――
「……えぇぇ」
たまらず僕は、しなびたキュウリみたいに、げんなりしてしまった。
「何を世紀末のぬか漬けのような顔をしている? たかが七二時間程度、不眠不休でも死にはせんだろう?」
いや普通死ぬよ。
三日間寝なくても平気なのが当たり前、とでも言いたげなレイシアに、心の中で突っ込む。
「まあ、兎に角。貴様が魔術と相性が良いであろうことは、前回の戦闘で貴様が見せた技から確信を得たことだ。おそらくだが、十分な戦力アップに繋がることは間違いない。強いて言えば、魔力量は女性の方が優れる傾向にあるが故に、そこだけが難点だが……っまあ、貴様には剣術もあるし問題はないだろう。貴様に話すことは以上だ。何か質問は?」
「いや……別に無いですけど。強いて言うならお願いが……」
「なんだ? 言っておくが、休憩時間も三日間に込めろというのは聞かんぞ? ただでさえ時間がないからな。それ以外のことなら聞く耳を持ってやるから、言ってみろ」
「いえ……もういいです」
諦めてそう答える。
どうやら、本当に三日間不眠不休で魔術の特訓をしなければならないらしい。
(まったく、鬼かこの人は……)
前言撤回だ。
ぜんっっっぜん、性格が丸くなっていない。




