表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/304

第三章2 想定外の切り札

「――まあ、兎に角だ。殿下を人質に取られている以上、こちらも迂闊には動けないってことだ。だから、本来護りだけを固めるべきなんだが……」

「だからこそ、攻め入れるべきだと言っている!」


 頭を搔きながら言うロディに、すかさずレイシアが首を突っ込む。

 結局話は振り出しに戻ってしまった……いや、振り出しから動いていないだけな気もするが。


 どちらにせよ、水掛け論だということは間違いない。

 このまま、二人が正反対の意見を唱え続けても収拾がつかない、ということだ。


 だって……どっちも我が強いもん。

 たぶん主張を取り下げるような人達ではないはずだ。


「あのさ、ちょっと思いついたことがあるんだけど……」


 不倶戴天ふぐたいてんの敵同士のようににらみ合う二人を見かねて、僕は声をかけた。


「なんだ?」

「どうした?」


 取っ組み合いをやめ、二人はこちらを向く。


「その、セルフィス王女って人を救出してから攻め込むのは、ダメなの?」

「まあ、不可能ではないだろうが……向こうにそのことがバレれば、間違いなく王女は殺されるだろうな。やるとしたら、確実に王女を救った上で、攻め込まなければ意味がねぇ」

「まあ、そうなるよね……」


 見かけの割に慎重な物言いをするロディに、同調する。


「だが同時に、成功すれば向こうに大打撃を与えられる、というのも事実だ」


 しかし負けじと、レイシアが口を挟んだ。


「〈ウリーサ〉から王女殿下を取り返せば、奴等の士気は少なからず下がるはずだ。セルフィス王女というこれ以上ない人質を失えば、組織内部に混乱が生じるはずだ。その混乱に乗じて一気に攻め込めば、勝機はある」

「ったく簡単に言ってくれるぜ……あれほど護りに徹しろっつってんのによ」


 ロディはため息をついて、また頭をがりがり搔いた。


「まったく、まだそんな不抜けたことを言っているのか貴様は。噂では、どんな敵にも真正面から向かっていく、猪突猛進の頼れる騎士長(笑)だと聞いていたのだが」

「いや、そりゃ確かにそうなんだがなぁ……」


 ロディはバツが悪そうに答えて、話を続ける。


「その辺のザコ敵が相手なら、全く問題ねぇんだがよ。テレサって女とカモ野郎が出てきたら、いくらなんでも分が悪いぞ。特にテレサだ。過去に相対したことがあるからわかるが……あいつは正真正銘の化け物だ。俺達四人が束になってかかっても、倒しきれるかどうか……」

「それについては余も承知している。散々煮え湯を飲まされたからな。いつか借りは返すつもりだが……何の準備も無しに勝てるほど、甘い相手でないことは理解している」

「だろ? だから――」

「いいや、だからこそだ」


 もう何度目かわからない否定の言葉を、レイシアは口にする。

 というかこの二人、馬合わなさすぎでしょ。


「準備をした上で、四人全員でテレサとカモミールを叩く。どのみち、護りに重きを多くにしても、いつまでもというわけにはいかんだろう? 王女殿下が攫われて半年。殿下の安否はようとして知れない状況だ。ここらで一つ、賭に出るべきじゃないのか?」

「まあ、分の悪い賭けだが……お前の言うこともわからないわけじゃない」


 ここでようやっと、ロディの主張が揺らいだ。


「ただ……」

「ただ?」

「お前の中で、勝算はあるのか?」


 ロディは、今一度レイシアの目を覗き込むように、顔を近づける。


「近づくな気色悪い」

「いや真面目に話してんだから、そういうこと言うのやめろよな! ナチュラルに傷つくんだが!?」


 心底嫌そうに顔をしかめるレイシアに、ロディは喰って掛かる。だが、それも完全にスルーして、レイシアは答えた。


「現段階ではまだ勝算と呼べんが……テレサとカモミールを相手取る上で、切り札になり得るものを、この一週間考えていた。そして、一応見いだした」

「ほう? なんだそれは?」


 ロディは、興味深そうに片方の眉を吊り上げる。


「それはな……」


 レイシアは少しの間を空けて、急に僕の方を見た。


「こいつだ」

「……へ?」


 思わず変な声を上げてしまう。

 何だって? 僕が切り札?

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 切り札として期待されている男、カース!!! 主人公補正もあるとは思いますけど重圧かかってますね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ