第三章1 新たな真実
第二部及び、第三章の開幕です。
本章も、何卒よろしくお願いいたします。
王国騎士団と王宮魔術師団の双方が、壊滅的な被害を受けた夜から、一週間が過ぎた。
その僅かな間に、王宮や警邏庁は数々の対応に追われた。
死んだ兵士達の葬儀に、遺物整理、被害を受けた街の復興の着手。
目まぐるしい一週間の中で、際だって目立った対応と言えば、ずばり王国騎士団と王宮魔術師団の合併だろう。
正確には魔術師団が騎士団に吸収された形となるが……それを言ってしまうと、レイシアが五月蠅いだろうから、あえて合併と言っておく。
合併に踏み切ったのは、国の防衛省を管理する国防管轄官ではなく、なんと国王陛下、マキュリー三世であった。
主な理由は、戦闘により両組織の人員が七割以上も減ってしまって、組織の体を保てなくなってしまったことだ。
また、近接戦を主体とする騎士は、魔術師相手にめっぽう弱いため、単体で防衛戦に配置するのは愚策であると判断されたためでもある。
いずれにせよ、レイシアが「解せぬ」とばかりに渋い顔をしていたのは事実だが……国王の勅命ともなれば、従わないわけにもいかない。
やむを得ず、了承した形であった。
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「――だから、今すぐにでも〈ロストナイン帝国〉を攻めるべきだ。こちらが大打撃を受けた今だからこそ、相手は「まさか攻められないだろう」と高をくくっているはずだ!」
控え室に、レイシアの凜とした声が響く。
「いや、護りを固めるべきだ。こちらの戦力がズタズタに裂かれた以上、いつ向こうから襲撃してくるかわからない。こうしている間にも、また大部隊を連れて責めてくるかも知れないんだぜ? しかも、〈ウリーサ〉の規模は未知数じゃねぇか。迂闊には攻められねぇ」
長テーブルを挟んで向かいに立つロディが、腕を組みながら力説する。
その横で、暇そうなフィリアが欠伸を噛み殺しており……
今、いつもの控え室ではロディとレイシア、それにフィリアと僕の四人が集って、(約二名のみ)熱い議論を交わしている真っ最中であった。
議題は、〈ウリーサ〉への今後の対応について。〈ウリーサ〉の脅威が及ぶ前に不意打ちを仕掛けるか、はたまた攻められても守り切れるように、万全な防衛網を築くか。
レイシアとロディの意見が真っ二つに割れ、今激しい論争が起きていた。
「大体、迂闊に攻められない理由は、お前もよく知っているはずだぜ? 〈トリッヒ王国〉は、あの御方を人質に取られてる。〈ウリーサ〉の連中が桁違いに強くて、奴等を攻め落とせなかったのもあるが、それ以上に――」
「そんなことは重々承知だ。だが、だからこそ今攻めれば不意打ちになるのだ」
「んなアホな!? あの御方の御身に何かあったら……!」
――何やら、ロディが常に劣勢であるように見えるが。
それにしても気になる単語が一つあった。
「ねぇ、あの御方って誰?」
口を挟んだ僕の方を、ロディとレイシアは振り返った。
「そうか、そういえば貴様は知らぬのだったな」
「俺達が、〈ウリーサ〉から国を守るばかりで、〈ロストナイン帝国〉に手出しできない最大の理由が、あの御方の存在があるからだということを」
すると、二人は全く同時に右手を僕の方に差し出し、堂々と言い放つ。
「「今こそ教えよう!」」
「……あ、うん。よろしく(何この寸劇みたいなヤラセ感満載の展開は)」
あと、なんでこういうとこだけアドリブで息が合うんだよ。さっきまで喧嘩してたくせに。
心の中でツッコミを入れる僕であった。
それはそうと、〈ウリーサ〉から国を守るばかりで、〈ロストナイン帝国〉に手出しできない理由というのは気になる。
あのデリカシーが無さそうなロディが、あの御方と呼ぶくらいだ。相当やんごとなき身分の人だとは思うが……
――「〈ウリーサ〉は東側の隣国〈ロストナイン帝国〉子飼いの魔術結社だ。早い話、この国の王宮魔術師団や王国騎士団と似たような立場だが…大きく違う点が二つ。一つは、他国への侵略が制限されている俺達とは違い、積極的に侵略可能な、帝国軍としての側面が色濃いこと。そしてもう一つは、非道な連中ってことだ」――
以前、ロディはこんなことを言っていた。
一方的な侵攻を許してしまうのは、どうやらその“御方”に理由があるかららしい。
「俺達が〈ロストナイン帝国〉に対して迂闊に攻撃できないのはな、セルフィス殿下……この国の王女を人質に取られてるからだ」
「えぇええええ!? 王女ぉおおおおおおお!?」
あまりに予想の斜め上を行く、やんごとなさの塊みたいな人物の名を出されて、僕は素っ頓狂な叫び声を上げた。
その声に、向かい側の席で船を漕いでいたフィリアも「むにゃ……」と目を擦りながら何事かと起き上がる。
「ああ、そうだ。半年ほど前、〈ウリーサ〉の侵攻に勢力を裂いている隙に、攫われた。俺達としたことがまんまと敵の罠に嵌まったわけだが……今更それを悔やんでも詮無きことだ。今考えるべきは、セルフィス殿下の身が敵の手中にあるということだ」
「なんか、かなり厳しい事態だね」
「ああ、由々しき事態だ」
レイシアが、神妙な顔で答える。
王女を人質に取られたとあっては、確かにこちらの行動は大きく制限される。迂闊に攻め入れないのも、頷けるというものだ。
「ちなみにだがな、カース」
ロディはにんまりと不敵な笑みを向けてくる。
「セルフィス王女、めちゃくちゃ美人だぞ?」
「ホントに?」
「ああ、ホントだ」
「まあ、確かに王女って言ったら美人のイメージあるけど……」
「国中で、天使の生まれ変わりじゃないかとも噂されるほどの美貌だ」
「へぇ! それは是非ともお会いしてみたいな」
美少女に会いに行かないなんて、男が廃るというものだ。
「おい、貴様」
「お に い?」
何やら怖い声がして周りを見ると、レイシアが何かもの言いたげにこちらを睨んできていて……フィリアは不服そうに両方の頬を膨らませている。
「あ~、ごめん。今はそんなこと言ってる場合じゃなかったね」
「そういうことじゃないって、バカ!」
フィリアはずいっと身を乗り出して、言ってきた。
「他の女の子にうつつを抜かすなんて、フィリア許さないから!」
「あ~、そういうこと。わかった、ごめん」
とりあえず謝ってレイシアの方を見ると、彼女もまた「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
表情は見えないが、耳の先が真っ赤になっている。
(なんか……思ったより女性関係が進展してるみたいなんですけど)
願っていたこととはいえ……中々クセの強いハーレムになりそうだ。




