第二章22 激戦 僕とテレサ
「《削命法―結氷》」
テレサの右手に冷風が渦巻き、即座に氷柱を構築。
空気を凍り付かせながら、僕の方に迫る。
「くっ!」
咄嗟に剣を振るって迎え撃つ……が、空気をも凍てつかせる氷の魔術を真正面から受け止めて、剣が無事でいられるはずもない。
触れた切っ先からパキパキと音を立てて凍り付いてしまった。
「いや反則でしょそれは!?」
剣を凍らされた今、刃が氷で覆われ、使い物にならなくなったのだ。
(こんなの、ただの冷たい棒じゃないか!)
騎士は魔術師より弱いなんて認めたくはないが、こうして超常的な現象を起こせる魔術師の方が有利であることは、純然たる事実だ。
だが、次の瞬間閃いた。
(そうだ! 剣として使い物にならないんだから、凍った棍棒として使えば良いじゃん!)
ものは試し。
「やぁあああああああああああッ!」
気迫と共に、地を蹴って駆け出す。
「あらあら? 威勢はなかなか良いようですわね」
テレサは薄ら寒く微笑んで、更に呪文を括る。
「《削命法―結氷―三連符》」
今度は三つの氷柱が弧を描いてそれぞれ肉薄する。
「嫌な攻撃を!」
僕は歯がみしつつ、剣の腹を正中線の前に構え、急所を守りながら突進する。
避けることが懸命だが、避けられない。なぜなら、今は動けないレイシアが背後にいるからだ。
たぶん……僕が避ければ攻撃は全て、レイシアに当たる。
「うふふ、良い覚悟ですわね」
僕の考えを察したらしいテレサは、賞賛の言葉を贈ってくるが。
うわ~、女の人に褒められた! 嬉しい~! などと思っている余裕はない。
瞬く間に接近した三つの氷柱が、立て続けに凍った剣に直撃する。
ぶつかる度、剣にまとわりつく氷塊が成長し、巨大な氷の棍棒を形成。
全ての攻撃をしのいで懐に飛び込んだ僕は、氷の棍棒を大きく振りかぶる。重心が氷の棍棒に集中しているため思わず転びそうになるが、そこは必殺☆男の気合いで踏ん張り。
「はぁッ!」
全身全霊を込めて真横からテレサを叩き付ける。
「《……、――障壁》」
だが、既に呪文を唱えていたテレサは、防御魔術を発動。
氷塊の一撃が決まるギリギリで、テレサを守るように六角形障壁が展開され、氷が粉々に粉砕。あまつさえ、攻撃が弾かれてしまう。
「くぅッ!」
弾かれた衝撃で靴底をすり減らしながら下がる僕に、すかさずテレサの右手が向けられた。
「《削命法―水禍》」
刹那、テレサの右手に水の玉が集い、水柱が僕めがけて迫る。
(今度は水撃――ッ!)
自身に恐るべき水の災いが迫る中、頭を回転させて打開策を探す。
そんな僕の視界に、ちらりと地面に揺れる炎が映った。
先程の戦闘の余波で、地面が燃えているのだ。
「これだ!」
閃いた瞬間、立ち上る炎の中に剣を突っ込んだ。ズザッと音を立てて、剣が燃えさかる地面に深く突き立つ。
「えぇいッ!」
掛け声と共に思いっきし剣を振るうと、燃えあがる地面諸共炎が空中へと飛び出し、水柱と激突。
水が一瞬で蒸発して、視界が白く煙る。
(今だ!)
視界が曇った隙を突いて、テレサがいる方向に駆け出す。
「……いたっ!」
すこぶる視界は悪いが、白い背景に彼女の赤いドレスは映えすぎる。
すぐに見つけて、力任せに突進。
テレサがこちらに気付く前に、胴体を剣で見事ぶち抜いた――はずだった。




