第十章22 そっくりな二人
別館は、本館よりも賑わっているようだった。
風呂上がりで綻んだ表情の人が、なんと多いことか。
とても、じめったく生気を感じられない下座とは思えない。
「おそらく、ここが彼等の憩いの場なんだろうな」
「私もそう思います」
レイシアの発言に同調しつつ、辺りを見まわす。
浴衣姿でくつろいだり、だべったりしている人達に隠れて、ちらりと番台が映った。
「あそこが番台ですね、行きましょう」
人々の合間を縫って、番台へ歩いて行く。
番台というのは、温泉の入り口の前などに設けられた、高い台のことだ。
番台に座る人は、客の動向を見張ったり、料金のやり取りをしたりする。
私達の場合、既に料金は女将さんに払っているから、料金を払う必要は無い。
だが……タオルと風呂上がりの浴衣は、借りなければならない。
当然だ。
フリマで荷物の多くを小塙に変えてしまった私達は、ろくに着替えを持っていないのだ。
自業自得と言われそうだが、どのみち私達の格好は、この村において目立ちすぎる。
良い衣替えの機会だ。
竹を斜めに切って、その中にろうそくを入れた、なんともオシャレな明かりが置いてある番台にたどり着くと、ちょうど向こうを向いている女性の番台さんに声をかけた。
「あの、すいません」
「はい?」
声をかけると、番台さんが振り向く。
「風呂上がりの浴衣と、タオルを……」
私の言葉は、そこで止まってしまった。
否。
私だけではない。
フィリアも、レイシアも、セルフィスも。
シェリーも、普段柔和な笑みを崩さないヘレドでさえ、驚愕に目を見開いて硬直してしまっていた。
私達の視線は――その番台さんの顔に釘付けになっていた。
「おいでませ、浴衣とタオルをお求めですか?」
私達の表情を意に介さず、番台さんは柔和に微笑む。
藍色の髪を結った、優しそうな中年の女性。
なのはいいのだが、ツッコミどころはもっと別にある。
「今準備してきます」
番台さんは、浴衣とタオルを持ってこようと、腰を上げ――
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください!?」
ようやく言葉を発することができた私は、なんとか番台さんを呼び止めた。
「はて、なんでしょう?」
「いや……つかぬことを聞きますが、さっき会いましたよね!?」
「いいえ。お客様と会うのは、これが初めてございます」
「え? そんな……え?」
私は、内心パニックになっていた。
だって、さっきの女将さんとこの番台さんは、まったくと言っていいほど、そっくりなのだ。
「姉妹? 双子? いや……あまりにも似すぎだし、ドッペルゲンガー? それとも忍者の変装?」
「なにが変装でございますか?」
「うわっ!?」
唐突に後ろから声をかけられて、口から心臓が飛び出るくらい驚いた。
いつの間にか、私達の後ろには、さっき会った女将さんが立っていたのだ。
反射的に、私は前にいる番台さんと後ろにいる女将さんを、交互に見る。
やはり――そっくりとかいう次元じゃない。
もう同一人物である。
いや――もしかしたら私の後ろに瞬間移動しているだけかも?
いや、それはもう人間わざじゃない。
私今、パニック状態です。
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