表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

303/304

第十章22 そっくりな二人

 別館は、本館よりも賑わっているようだった。


 風呂上がりで綻んだ表情の人が、なんと多いことか。

 とても、じめったく生気を感じられない下座とは思えない。


「おそらく、ここが彼等のいこいの場なんだろうな」

「私もそう思います」


 レイシアの発言に同調しつつ、辺りを見まわす。


 浴衣ゆかた姿でくつろいだり、だべったりしている人達に隠れて、ちらりと番台が映った。


「あそこが番台ですね、行きましょう」


 人々の合間を縫って、番台へ歩いて行く。


 番台というのは、温泉の入り口の前などに設けられた、高い台のことだ。

 番台に座る人は、客の動向を見張ったり、料金のやり取りをしたりする。


 私達の場合、既に料金は女将さんに払っているから、料金を払う必要は無い。

 だが……タオルと風呂上がりの浴衣は、借りなければならない。


 当然だ。

 フリマで荷物の多くを小塙こばんに変えてしまった私達は、ろくに着替えを持っていないのだ。


 自業自得と言われそうだが、どのみち私達の格好は、このくににおいて目立ちすぎる。

 良い衣替えの機会だ。


 竹を斜めに切って、その中にろうそくを入れた、なんともオシャレな明かりが置いてある番台にたどり着くと、ちょうど向こうを向いている女性の番台さんに声をかけた。


「あの、すいません」

「はい?」


 声をかけると、番台さんが振り向く。


「風呂上がりの浴衣と、タオルを……」


 私の言葉は、そこで止まってしまった。

 いな

 私だけではない。


 フィリアも、レイシアも、セルフィスも。

 シェリーも、普段柔和な笑みを崩さないヘレドでさえ、驚愕に目を見開いて硬直してしまっていた。


 私達の視線は――その番台さんの顔に釘付けになっていた。


「おいでませ、浴衣とタオルをお求めですか?」


 私達の表情を意に介さず、番台さんは柔和に微笑む。

 藍色の髪を結った、優しそうな中年の女性。

 なのはいいのだが、ツッコミどころはもっと別にある。


「今準備してきます」


 番台さんは、浴衣とタオルを持ってこようと、腰を上げ――


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください!?」


 ようやく言葉を発することができた私は、なんとか番台さんを呼び止めた。


「はて、なんでしょう?」

「いや……つかぬことを聞きますが、さっき会いましたよね!?」

「いいえ。お客様と会うのは、これが初めてございます」

「え? そんな……え?」


 私は、内心パニックになっていた。

 だって、さっきの女将さんとこの番台さんは、まったくと言っていいほど、そっくりなのだ。


「姉妹? 双子? いや……あまりにも似すぎだし、ドッペルゲンガー? それとも忍者の変装?」

「なにが変装でございますか?」

「うわっ!?」


 唐突に後ろから声をかけられて、口から心臓が飛び出るくらい驚いた。


 いつの間にか、私達の後ろには、さっき会った女将さんが立っていたのだ。


 反射的に、私は前にいる番台さんと後ろにいる女将さんを、交互に見る。

 やはり――そっくりとかいう次元じゃない。


 もう同一人物である。

 いや――もしかしたら私の後ろに瞬間移動しているだけかも?

 いや、それはもう人間わざじゃない。

 私今、パニック状態です。


面白い、続きが気になると思いましたら、ブックマーク登録、もしくは↓にある☆を★に変えていただけると、とても嬉しいです!!

執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ