第十章21 灯台もと暗し
ほどなくして、シェリーの捜索に行っていた面々が、集まってきた。
皆、既に来ているシェリーを目撃すると、少なからず目を丸くして、一言二言嫌味を言ったものだが――本気で怒る人は一人もいなかった。
「さて、これでようやく全員そろったわけだが……」
レイシアは、集まった一同を見まわして、それから困ったように眉を寄せた。
「これからどうする? 一人先走ったイノシシ娘二号を無事捕獲できたのはいいが、この後のことは考えてないだろう?」
「あはは。シェリー、イノシシ娘二号だって! あははっ!」
フィリアがすかさず反応し、話の腰を折る。
が、しかし。
「……言っておくが、貴様が一号だぞ?」
「ほへ?」
レイシアは呆れてため息をつきながら、きょとんと首を傾げるフィリアに告げた。
「ボクと、このおバカを一緒にしないで欲しいのだ」
シェリーは心底不服そうに目を細めて、フィリアを睨む。
「ちょっ! それどういう意味!? 聞き捨てならないんだけど! 心外だよ心外!」
ひとしきりまくし立てたあと、藁にも縋るように、私の服の袖を握ってきた。
「おにい、違うよね? フィリア、イノシシ娘じゃないよね? こんなボクっ娘の頭お花畑より役に立つよね?」
「さらっとボクをディスるななのだ!」
青筋を立てるシェリーなど眼中にないとばかりに、捨て犬のような目で私を見つめてくるフィリア。
その姿に、私は「フィリアも同じようなものだよ」なんて言えなくて。
「あー……う~ん。違うんじゃ、ない……かなぁ~」
「おにい、なんでそんな歯切れ悪いの?」
「そ、そんなことないよ?」
「なんでそんな目を逸らすの?」
「き、気のせいだよ」
――ただ、前科がありまくりなので、「違うよ」とも言い切れなかった私は、ごまかすので精一杯であった。
「まったく、貴様らはいつまで喧嘩をしているつもりだ」
レイシアは、額を手で押さえながら会話に割って入った。
「喧嘩じゃないよ? 生産性のない言い合いだよ?」
「そこは自覚があるのか。清々しいな、貴様は」
レイシアはジト目で、フィリアを見つめ、ため息をつく。
水掛け論を繰り広げている自覚はあったらしい。
「話を戻すぞ。これからどうする?」
「とりあえず休みたい。ご飯と温泉付きの旅館で」
「阿呆。そんな都合良くあるわけがないだろう。周りの建物をよく見ろ。上座ならまだしも、ここは下座だ」
我が儘を述べるフィリアと、それに振り回されるレイシアの図。
なんだか、一周回って仲むつまじそうに見えてしまう。
と、そのとき。
不意にセルフィスが口を挟んだ。
「あの、ありますよ? 温泉旅館」
「なに? 本当か?」
「どこどこ? どこにあるの?」
「あの……すぐそこに」
目を丸くする二人の後ろを、ゆっくりと指さす。
「なに?」
「え?」
反射的に二人は後ろを向く。
彼女の後ろには、集合場所として指定した湯や(暖簾の下に「下座旅館」書かれている)が。
少しの間、沈黙の時間が流れた後、フィリアとレイシアは呆けたように呟いた。
「「あった」」
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