第十章17 思わぬ形で再開?
バンッ!
音を立てて、本殿の扉が開いた。
「いやぁああああああああッ!?」
ぎょっとして飛び上がってしまう私。
「な、なな、なんなのだ!?」
扉を開けた主も、驚いて尻餅をつく。
胸元に据えられた宝石のペンダントが、大きく左右に揺れた。
足下に座り込んだ人物を見て、私も目を丸くする。
「ぁあああああッ……あ、れ? シェリー?」
「びっくりしたのだ。脅かさないでほしいのだ」
探し人――シェリーは立ち上がり、おしりについたホコリをパンパン払いながら言った。
「どうしてここにいるのだ?」
「いやいやいや。その台詞、そっくりそのまま返したいんだけど!?」
すかさず突っ込む。
「なんでこんな人気の無い場所に籠もってたの! ていうか、ここ本殿だよね? 神様が奉られてる神聖な場所だよね!? 入っちゃダメでしょ!」
「ボクは神様とか信じないタイプだから大丈夫なのだ」
「いやそうかもしれないけど……大丈夫? 呪われない?」
「知らないのだ。そういえば、今ここで宝石の加工をしてたけど、今日は珍しく手元が狂って、ナイフで指を切ってしまったのだ。でもきっとこれは、ボクの不注意だから関係ないのだ!」
「いやぁ……かんっぜんに祟りだと思うんですがそれは……」
最早呆れてものも言えない。
「まあとにかく、シェリーが人気の無い真っ暗な場所にも動じず、容赦なく神様に喧嘩を売る、肝が据わった人間だってことはわかった?」
「バカにしてるのだ?」
「いいや褒めてるよ(棒)」
「ならいいのだ!」
機嫌良く鼻歌を歌いながら、本殿を出るシェリー。
なんというか――非常におめでたい人だ。
心の底からそう思った。
――元来た道を戻る。
シェリーを見つけた今、もうこの場所に用はない。
けれど、待ち合わせに指定した場所からは、随分と離れている。
境内から下に続く階段を降りながら、ちらりと夜の景色に視線を飛ばす。
ここからだと、下座の街が、ある程度見渡せるのだ。
待ち合わせに指定した湯やは、ここからでも一際目立つ。
もっとも、他の建物の明かりが、今にも消えそうなほどに弱々しいからではあるが。
「そういえば、なんでさっき怒ってたの?」
石の階段を降りきった辺りで、私はシェリーに質問を飛ばした。
「さっき?」
「ほら、この街の理不尽に対して。こんなこと言っちゃ悪いけど……このニタ村は、私達にとってはなんの関係もないでしょ? なのに、急に目の色を変えて、意地でもここから出て行かないみたいなこと言ったりして……」
「この街の現実そのものが、気にいらないわけじゃないのだ」
シェリーは、小石をケリながら答える。
コンコンと音を立てて、小石は近くの草むらに身を隠した。
「じゃあ、何が気に入らないの?」
「この村の……ううん、殿様って人の考え方が、嫌いなのだ」
「この村はお金が全てってやつ?」
「そうなのだ」
「でも……その考えは間違ってないんじゃないかな?」
シェリーの機嫌を損ねる気はないが、一応そう言っておくことにした。
残念ながら、地獄の沙汰も金次第、などという言葉もあるように、世の中は金銭で回っている。
地雷を踏んだかな、と少し気を配りながら、シェリーの口から次の言葉が紡がれるのを待った。




