第十章16 荒れ果てた社へ
「おーい! シェリーいるぅううううう?」
すっかり暗くなった街を、小走りに駆け回る。
周りの建物は、相変わらずくたびれた様相を呈しており、まるで天然のお化け屋敷のようだ。
「こんなに寂れた感じなら、家を一軒借りてお化け屋敷にした方が、もうかったかも……」
ぶつぶつと呟きながら、シェリーを探して回る。
端から見れば、独り言が好きな怪しいヤツに見えるだろうが……仕方ない。
こんな暗くて雰囲気のある場所で一人になれば、心細くもなる。
上座の楽しげな雰囲気とは、大違いだ。
ふと脇道を見つけ、そちらに目を向ける。
脇道の奥には、坂道を上る階段が据えられていた。
「あれって……神社だよね」
頂に石造りの鳥居を見つけ、おもむろにぼやいた。
何から何まで日本そっくりだ。
ホームシックなのか、興味本位なのか。
なんとなく、上がどうなっているのか気になり、私は吸い寄せられるようにして階段に向かった。
一歩、また一歩と階段を上る。
よほど長いこと整備されていないのだろう。
石の階段はところどころヒビ割れ、苔むして滑りやすくなっている常態だった。
「これは……お社も、酷い状態だろうな」
そう予想したとおり、上にたどり着いて見た光景は、お世辞にも神様を奉る場所とは思えないものだった。
ヒビ割れた鳥居に、雨風に晒されて薄汚れた狛犬。
境内は草が生え散らかしており、手水舎の水は、一瞥しただけでわかるくらいに腐っていた。
「ひどい……」
とりあえず、マナーなので鳥居の前で一礼してから、境内に足を踏み入れる。
異世界で日本の一般的なマナーが通じるのかは知らないが。
まあ、ここまで何もかもそっくりなら、きっと風習も同じだろう。
側にいた狛犬に手を当て、軽く汚れを払う。
それからゆっくりと、拝殿へ向かって歩き出した。
と、そのときだ。
かん……かん。
硬いものを叩く音が、社の奥から聞こえてきた。
廃墟のように荒れ果てた夜の神社から、何やら音が響いてくるという状況――
いつからホラー旅行になったんだ、この旅は。
「……なんだろう」
ごくりと唾を飲み込んでから、参道を降りる。
どうやら、拝殿の奥。
神様がいらっしゃる本殿の方から聞こえるようだ。
「まさか、あまりにも扱いが雑だから、神様がお怒りになった……とか?」
別段宗教を信仰しているわけでもないが、“お米を残すと目が潰れる”なんていう迷信は信じているタイプだ。
何かしらの罰やら祟りやらは、十分にあり得る。
こんな人気のない場所で、不気味な音が聞こえてくることが、何よりの証拠だ。
「どうか、空耳でありますように……」
そんな願いも空しく、拝殿の裏にある本殿へ回り込むように近づく度、音は鮮明に聞こえてきた。
今度は、ギコギコ……という、何かを削るような音。
完全にホラー脳になってしまった私には、もはや山姥が包丁を研ぐ音にしか聞こえない。
「な、何……本殿で何が起きてるの?」
恐怖心から、足が動かなくなる。
が、次の瞬間。
ピタリと音が止んだ。
「……?」
私はまた足を踏み出す。
おっかなびっくり、恐る恐る、本殿に近づいて扉の前に立った――そのときであった。




